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第四章・9
結局脱衣所で来夢と共に服を脱ぎながら、波留は紫苑のことを思っていた。
(あんな大きな家にお父さんと二人だなんて、淋しいだろうな)
しかもその父親も、夜勤で居ないことが多い。
紫苑が学校へ出かける頃に帰って来て、彼が帰宅する頃には寝ているか再び出かけるかのどちらかだ。
生活サイクルが全く嚙み合わない、親子。
果たして、会話もしているのかどうか怪しい。
シャワーを浴び、大きなバスタブに身を沈めた波留は、素朴な疑問を来夢に投げた。
「どうして突然マンションに引っ越したの?」
「俺、もう大学生だぜ。いつまでも実家暮らしもどうかと思って」
「一人暮らしって、淋しくない?」
「波留がいるから、大丈夫~」
ぱしゃん、と湯を立てて来夢は波留に抱きついた。
「わぁ! ヤだよぅ、お風呂でなんて!」
「キスだけだよ、キスだけ」
「んぅ、んむむ……」
キスをしながら、来夢は考えていた。
(いつまで波留と付き合おうかな。早く、由樹とヤりたいなぁ)
だが今は、目の前の快楽に夢中な来夢だ。
キスをしながら、波留は考えていた。
(紫苑、このマンションに遊びに来ないのかな)
淋しい。
僕、淋しいよ。
心の一片が欠けたような、そんな気分を波留は味わっていた。
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