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第五章・4
黙ってしまった波留に、由樹は声をかけた。
「波留くん、ぼやぼやしてると来夢は浮気しちゃうよ? 僕に、乗り換えちゃうよ?」
「そんな」
「紫苑が優しいからって甘えてると、来夢はどんどんどこかへ行っちゃうよ?」
がちゃん、と音を立てて、紫苑が茶碗を皿に乗せた。
「ごちそうさま。波留、気にすんな。由樹のやつ、お前にやきもち妬いてるだけだ」
「紫苑」
「片付けとか、いいから。今すぐ来夢のマンションに行け」
「う、うん」
ごめんね。
紫苑、ごめんね。
そう謝りながら、波留は外へ出ていった。
残された紫苑は、由樹に不機嫌を叩きつけた。
「波留に、余計なこと言うなよ」
「そっちこそ。別に僕、波留くんにやきもちなんか妬いてないし」
「じゃあ、何だよ」
「別に。面白くなってきたなぁ、って」
だったら、と紫苑は由樹に詰め寄った。
「だったら、少し黙ってろ。波留を不安がらせるな」
しかし、紫苑が熱くなればなるほど、由樹は口元をゆるくほころばせるのだ。
まるで、余裕の表情で笑みを浮かべて。
「さ、バス使ってもいい? 髪におでんの匂いが付いちゃった」
「勝手にしろ」
つかめない。
まるで心の内が読めない年上の恋人に、紫苑は翻弄されていた。
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