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第六章・2
「紫苑の恋人と、一緒におでん食べたよ。由樹さんって人」
ぴたり、と来夢が歩みを止めた。
その肩越しに、波留は思いきって言った。
「紫苑の優しさに甘えてたら、来夢は由樹さんに浮気する、って」
「誰がそんなこと、言ったんだ」
「由樹さん」
来夢は、髪をくしゃりと掻き回した。
フレンチの洒落たレストランで待っていた。
一時間以上待っても、由樹はとうとう現れなかった。
「……まさか、紫苑とおでん食ってたなんて、な」
「来夢、待ってた人って由樹さんなの?」
面倒なことになった、と来夢は舌打ちしたい気分だった。
だが、目の前の波留をみすみす逃すことはしたくない。
今夜は独りで寝たくないのだ。
「今度新しく入ったサークルで、由樹とは一緒なんだ。いろいろ世話になったから、そのお礼だよ。それ以上でも、それ以下でもないさ」
「本当?」
「ホントホント。それより、浮気は波留の方じゃん。紫苑のとこに行って、おでん食うなんて」
「ご、ごめんね」
「いいよいいよ。さ、部屋に入ろう」
その時、波留の携帯が鳴った。
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