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第六章・7

 やっとの思いで、どうして、と声を振り絞った波留と違って、来夢は饒舌だった。 「だってさ、波留は紫苑のことが好きなんだろ? 由樹に聞いたぜ。気づかなくて、ごめんな」  どこまでも、自分は悪者にならないように話を運ぶ来夢に、波留は泣きそうだった。 「好きだけど、2番目だから。1番好きなのは、来夢だから」 「そういうの、俺ダメ。俺だけが好きでなきゃ、意味ないじゃん」  車は来夢のマンションではなく、見慣れた紫苑の家へと進んでいる。 「紫苑、かぁ。大体、最初はあいつが連れてきたよな、家へ。もしかして、あん時から紫苑のやつも波留のことが好きだったのかもな」 「嘘」 「あいつは良い奴だよ。料理も巧いし、面倒見いいし」 「やめて、来夢」 「はい、着いた」  車は、紫苑宅の前へと止まった。 「降りろよ」 「ヤだ」 「降りろ、ったら」  のろのろと、波留は車から降りた。  後は何も言わずに、来夢は走り去ってしまった。

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