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第六章・8

 涙が、湧く。  とめどなく、湧いてこぼれる。  嗚咽まで漏れ始めた時、紫苑が門へ入って来た。 「波留? どうしたんだよ、お前!?」 「ごめんね。すぐ帰るから」  待てよ、と紫苑は波留の腕をつかんだ。 「泣いてちゃ心配だよ。とにかく、家に上がれ。な?」 「う、うぅ。うん。うぅう……」  ただ泣き続ける波留に蒸しタオルを渡し、紫苑は夕食の準備を始めた。 「食ってから、帰れよ。腹が減ってたら、人間ろくなこと考えないからな」  紫苑はあったかいポトフを作り、波留にふるまった。 「さ、食えよ」 「食べたくない……」 「俺がせっかく作ったのに?」 「あ、そうか。ごめんね」 「だったら、食べてくれよ」 「うん……」  もそもそと食べるポトフだが、頬っぺたが落ちるほど美味しい。  食べ終わる頃には、波留の頬はほっこりと赤くなっていた。 「バスタブに、お湯張っておいたから。ちゃんと肩までつかれ」 「お風呂?」 「全身あったまってから、帰れ」  紫苑の優しさが、痛いほど沁みる。 (ああ、紫苑はいつもこうして僕に優しくしてくれてたよね)  瞼を閉じ、湯に浸かりながら波留は最後の涙をこぼした。

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