53 / 69

第六章・9

 波留がバスから出ると、紫苑は誰かと電話をしていた。  眉をひそめ、押し殺すような声で。 「それ、ホントかよ」  あ、と波留は直感で解った。  電話の相手は、きっと由樹さん。  そして、僕と来夢が別れた話をしているに違いない。 (どうしよう。そっと帰っちゃおうかな)  でも、紫苑は僕にご飯作ってくれた。  お風呂にも、入れてくれた。  そんな彼の優しさを、まるで無視して帰るなんてできない。  波留は思いきって、紫苑の前に出た。 「電話、由樹さん?」 「あ、波留」 「僕に、少し代わってくれないかな」  波留が由樹に、何の話だ。 「波留が、話したいって言ってる」 『うん。僕も波留くんと話したいよ』 「代わるけど、酷いこととか言うなよ。絶対」 『言わないよ、そんなこと』  紫苑から携帯を受け取り、波留は静かに瞼を閉じた。  どんなことを聞かされようと、耐える覚悟を決めていた。

ともだちにシェアしよう!