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第七章・3

『紫苑のことは、好き。今でも愛してる』 「由樹さん」 『でも、仕方ないじゃないか。紫苑は、波留くんのことしか見てないんだから』 「僕……、僕……」 『波留くん、僕の分まで彼を愛して。彼を離さないで。幸せを、しっかり掴んで』  涙で話せなくなってしまった波留に替わって、紫苑が電話に出た。  波留の肩を抱き、優しく撫でながら。 「ごめん。俺、由樹に酷いことしてた」 『何を今さら。最初から解ってたよ、紫苑は波留くんのことが好きなんだ、って』 「ホントに、ごめんな」 『謝らないで欲しいな。泣けてきちゃうから』  今から、最高のショータイムの幕が開く、ってのに。  ふふふ、と笑って、由樹は逆に謝って来た。 『紫苑のお兄さん。ちょっと苛めちゃうけど、許してくれるかな?』 「あの性格、少しはまともにしてやってくれよ」 『お許しが出ちゃった。先に謝っとこうかな、ごめんね』 「ああ」 『あ、来夢が来た。じゃあ、電話切るね』 「うん。元気でな」 『元気でね』

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