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第七章・4
紫苑は、通話を終えた。
波留が鼻をすすりながら、訊いてくる。
「由樹さん、何て?」
「元気でな、って」
「そう……」
しおれた波留の気持ちを上げようと、紫苑は少しだけ明るい声を出した。
「由樹にバラされちゃったけど。波留、お前のことが好きだ」
「紫苑」
「来夢より、俺の方が先に波留のこと好きになったんだぜ。覚えてる? 初めてこの家に来た時のこと」
「覚えてるよ。小林君とかと一緒に、お邪魔したよね」
そしたら、来夢のやつがどんどん波留を口説きにかかって……。
そうだね、そうだったね、と波留は紫苑の手を取り、過去を振り返った。
『君、可愛いね。名前、何て言うの?』
『Ωで北陽高校に入学できるなんて、すごいじゃん』
『俺は、αなんだけど。ね、運命の番って、信じる?』
来夢の言葉を思い出し、波留は頬を染めた。
「子どもだったね、僕。あんな言葉で、すっかりその気になっちゃって」
運命の番、か。
波留は、由樹の言った言葉で、それをなぞった。
『僕の幸せは、僕が決めるんだ。僕の選んだ道を進んで』
うん、と波留はうなずいた。
運命の番なんて、いらない。
僕のパートナーは、僕が決める。
波留は、もう泣いてはいなかった。
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