58 / 69

第七章・5

「何? 電話してたんだ」 「ううん、もう済んだとこ」  来夢は、温かなグリューワインを手にして戻ってきた。  二人は、イルミネーションで飾られた広場のベンチに掛けた。 「俺たち、ようやく結ばれるんだな」  雰囲気を作ろうと、そんな浮ついた言葉を紡ぐ来夢が、由樹にはひどく滑稽だった。 「まだ、だよ。最後の審査が残ってるから」 「え? 審査?」  由樹は、長い脚を高く組んだ。 「僕の靴に、キスを」 「な、何言ってるんだ?」 「できないなら、これでサヨナラ」  来夢は、由樹の真意を測れずにいた。  彼の顔色をうかがい、本気かどうか確かめた。  そんな来夢に微笑みかけ、由樹は彼が安心できるようにしてあげた。 「こういうプレイ、嫌い?」 「何だよ、そういうことかよ」  だらしなくニヤけた顔で、来夢は由樹の足を手に取った。 (由樹はSっ気があるのか。でもすぐに、従順なMちゃんにしてやるからな) (さ、来夢。君はもう、僕から逃げられないよ)  由樹はつま先にキスをする来夢を見下ろし、宣戦布告をした。 「精一杯、嬲ってあげる」  そして一気に、ワインを干した。

ともだちにシェアしよう!