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お兄さんだって(たまには)いいことがしたい!④

 問題は、僕の愚息の方なんだよなぁ。いい感じに勃ち上がってこない。実をいうと、兄のお腹の神々しい丸みに気圧されて、畏縮してしまっている。  僕は兄に寒くないように上掛けをかけて、兄の隣に潜り込んだ。兄を横向きにし、後ろから抱きついて、うなじに鼻を押し当てる。兄の匂いを鼻腔一杯に吸い込む。夕焼けの中に佇む、満開の桜を思わせる匂い。初めて番ったときのように眩暈のするような欲望を喚起するというよりは、ノスタルジックな感傷をもよおす。  あ、せっかく半立ちになっていた愚息が、かえって(しぼ)んでしまいそう! 僕はクンクンクンクン嗅ぎまくりながら、初めて犯した時の兄の様子を思い浮かべた。と同時に、兄が「くすぐったいよ」と身を捩らせた。僕の中で獣が僅かに身動ぎをする。  僕は自分の中の獣性を目覚めさせる為に、努めて唸り声を上げ、兄の肌を貪った。ぽっこり膨らんだお腹は避けながら、兄の肌を手でまさぐり、兄の臀部に股間を擦り着けた。そうこうしている間に、僕のものはなんとかゴムを装着出来るくらいに膨張した。僕は兄の首筋を食みながら、自らのズボンと下着を下ろし、手探りで枕元からコンドームを一つ取ると、素早く開封して身に付けた。さっさと挿入しないと。ほんの些細なことで萎えてはかなわない。  兄の一物を片手で軽く扱きながら、僕は一思いに兄の中に挿入した。柔らかくて熱い兄の内壁が僕を迎え入れたと思えば、ぎゅっと引き絞ってくる。僕は歯を食いしばり、腰を軽く引き、そして短く突いた。 「……っぁ!」  兄は声にならない悲鳴を上げ、僕の掌にどくどくと射精した。僕が腰を引こうとすると、兄は僕の腿を手で掴んで喘いだ。 「まだ抜くな……もっと……もっとしてくんないと、満足できない……」  兄の匂いが濃厚に香ってくる。僕の獣性がやっと目を覚まし、今度は兄を苦しめないよう、上手く制御するのが大変なほどだ。挿入は浅いまま、小刻みに抜き差しして揺さぶる。兄が、はぁーっ、はぁーっ、と息を吐く。その表情を僕は見たくて、僕のものを引き抜いた。ぢゅぽっと卑猥な音が立った。まるで栓が抜けたみたいに兄の中からどっと熱い体液が溢れて僕の腿にまで飛び散る。  僕は兄の肩を引いて、こちらを向かせた。対面になり、兄の上になった方の太股を抱え上げて脚を開かせ、挿入する。  膨らんだお腹は、まだ対面での結合を困難にするほど大きくはないけれど、僕の下腹部をそれなりの重量をもって圧してくる。この中に、僕とお兄さんの赤ちゃんがいて、挿入したものの先っぽから数センチのところに、もしかしたら赤ちゃんの頭があるのかもしれない。深く挿入しても、先っぽが赤ちゃん本体に当たることはないってネットには書いてあったけれど、やっぱりちょっと、申し訳ない感じがする。でも、ごめんね赤ちゃん。こうして適度に欲求不満を解消するのも、お父ちゃん達には必要なんです。 「お腹、痛くないですか?」  僕は下半身を揺らしながら兄に聞いた。 「平気……」  兄は僕の腕の中で、喘ぎまじりに答えた。 「ゆっくり、息してください」  揺りかごを揺するような気持ちで、僕は兄の身体を揺する。結合した部分がまるで融け合ってしまったかのように、境界線が曖昧になる。頭や、指先や、足の先まで、じんじんと甘い痺れが広がって心地よい。兄も今は僕の鎖骨辺りに頭を預けて、ゆるゆると呼吸を続けている。僕の下腹を押してくる、兄の膨らんだお腹は柔らかい。その中で僕達の赤ちゃんは、僕達がこんなあられもなく交わっているとはつゆ知らず、いい夢を見ていたりするのかなぁなんて、僕は想像した。     (おわり)

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