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始から説明を受け、智哉は暫しマコとリンと過ごす事となった。
共に過ごす事は構わない、問題はコミュニケーションをどう取るかだ。そこでリュックから取り出したのは、ノートとペンだ。マコは字が書けなかったが、リンは字が書けるらしい。意思疎通が出来るツールを発見し、智哉はとても楽しそうで、ふて腐れた様子だったリンも、つられるように次第に表情を緩めていく。智哉にそれが見えないのは、残念だ。
智哉はリンに、目印になるような物はないかとリュックを漁り、鍵に付けていたキーホルダーを差し出した。
「俺見えないからさ、側に居る時はこれ付けてくれると嬉しい。それ、俺のお気に入りなんだ。知ってる?戦隊ヒーローの、カラスマン!こいつクールで渋くて格好いいんだよ!」
すると、“見たことある”、とノートに字が連なっていく。
カラスマンは、“戦隊レンジャーズ”と言う作品に出てくるキャラクターで、ヒーロー達がピンチの時には必ずやって来て加勢してくれる、影のヒーローだ。ギザギザの黒いマントに、胸元に大きな星の模様が入った黒いスーツを着ている、掻き上げた黒髪に、顔には黒い大きなゴーグルを掛けている。
「かっこいー!リン、いいなー!」
「し、仕方ないからつけてやるだけだ!」
目を輝かせるマコに、リンは照れくさいのかぶっきらぼうに言う。だがその表情は、どこか嬉しそうだ。
リンはどこにつけるか迷って、腰帯にぶら下げた。妖が見える人から見れば、彼は全身黒色の服なのでカラスマンは見えづらいが、何も見えない智哉にとっては、腰帯で揺れるカラスマンがはっきり見える。
智哉もリンも、互いに自分が受け入れられたようで嬉しそうだ。
それから、言葉と紙によるコミュニケーションを重ね、三人は追いかけっこをする事に決めた。二人の居場所は分かっても、姿の見えない智哉には、なかなかハードルの高い遊びだ。足音と二人の小さな目印を頼りに動くしかない。
やるからには本気が智哉のモットーだが、残念ながら、ゲームを始めてからずっと鬼である。しかも小柄な二人はすばしっこく、気を抜くとすぐに目印を見失ってしまう。
「この追いかけっこ難易度高くない!?どこだよー二人共ー」
日々の運動不足もたたったのだろう、すぐに足腰は悲鳴を上げる。休日は決まって、女友達とスイーツ店巡りに勤しんでいる。体型こそ細いが、基本食べてばかりな生活を送っていた自分が、今はちょっと恨めしい。
そんな余計な事を考えていたからか、足元の草木に足を取られ、智哉は盛大に転んでしまった。
「うわ!」
尻もちをつき地面に手を付くと、そこは水溜まりだ。
「うわ、マジかー…」
お尻はびしょ濡れだ。
「トモ!」
心配して、マコとリンが駆け寄ってくる。それは智哉にも、目印と足音で分かった。
「あはは、転んじゃったよーと見せかけてタッチ!」
二人目掛けて飛び込めば、見えない二人の体に両腕が当たり、三人はそのまま地面に寝転んだ。
ここは水溜まりがないから安心だ。
「どうだ!参ったかー!」
二人のケラケラと楽しそうな笑い声が上がるが、智哉にそれは聞こえない。けれどそこには、確かに二人の温もりがあり、その体から伝わる振動から、二人の声が、表情が伝わってくるようで、智哉は通じ合う喜びに嬉しくなり、なんだか涙が出そうだった。
智哉にとっては、念願の妖の友達だ。ずっと暁孝の側に居て、彼が落ち込む姿を見る度、見えない自分に出来る事は何もないんだと思い知らされるようで、辛かった日々を思い出す。
転んだ智哉に気づいてか、暁孝は心配そうな顔でこちらに駆けてくる。
少しでも、役に立てるのかな。
そう思えば、転んだ事くらいどうって事なかった。
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