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池までの道中、森の側でリンを見かけたので、始は彼に声を掛け、リンにもついて来て貰う事にした。 リンは森の巡回が主な役割だという。マコを心配して、頻繁に森の外にも足を伸ばしているのだろう。 早速、リンに頼んでいた話もイブキにしてくれたようだ。その後、翼を広げて車から離れるリンを見送り、始は思わず溜め息をこぼす。 本当は、マコをリンに任せようと思ったのだが、今度はマコが一緒に行くと聞かなかった。元々狙われているのはマコだ、しかし何故行っては駄目なのか、その理由も咄嗟には浮かばず、押し問答をしていれば暁孝に急かされ、共に行く事となったのだ。 「本当は応援を呼んでからの方が良いんだけど…」 「それじゃ遅い」 「なんでそう思うの」 「俺に会いに来たんだ、あの妖」 「(あき)君に?」 「多分、俺の中の…」 アカツキ、と名前を出そうとして、マコが居る事に気づき言葉を詰まらせた暁孝に、始は察したのだろう、「あー、例のだね!」とわざとらしく声を上げた。 さすがに、智哉もマコも首を傾げたが、ここで話を膨らませてはいけないと、暁孝はすかさず話を続けた。 「その妖だが、女みたいな話し方だった。智哉から追い出す為に突っぱねたから…恐らく傷つけた」 「逆上してくる可能性もあるってことか」 そうなればまた町で暴れるかもしれない。それに、また智哉の体を使って、暁孝に会いにくる可能性もある。そうしたら、今度こそ智哉の命が危険に晒されるかもしれない。 ふと智哉に目を向けると、いつもの輝く目は鳴りを潜め、その表情は青ざめて見える。それは妖に体を乗っ取られていたと思えば、当然の反応なのかもしれない。 「…智」 声を掛けると、びくりと肩が震える。智哉は暁孝の目を見つめると、少しだけ表情を緩めた。 「…ずっと、誰かが泣いてる気がして、凄い、怖いんだ。さっきまで気づかなかったのに、胸の中、騒ぐんだ、返してって、泣いてる」 震え始める体を、暁孝は抱きしめる。池に居る妖に近づいているからだろうか。 宥めるように暁孝が背を摩れば、智哉は暁孝の服の端を掴む。あのしがみつくようなすがり方はしない、これが本当の智哉だと、どこかホッとする。 智哉とは、ずっと一緒だった。家が近所だった事もあり、二人は幼稚園からの仲だ。 祖父母が出来た人だったので、資産家で立派な洋館に住んでいても、妖の見える目を持っていても、近所付き合いが悪くなることはなかったが、子供同士となると話は別だ。 見えないものが見える暁孝は嘘つき扱いされ、一人になる事が多かった。そんな中、暁孝に声を掛けたのが智哉だった。 智哉は子供の頃から好奇心の塊で、元々不思議なものには興味があったのかもしれない。 「ゆうれいがみえるってほんと?」 「幽霊じゃない、妖怪とか、…そういうものだ」 「どこにいるの?あそこになにかいる?どんなおかお?どんなこえ?」 キラキラした大きな瞳が、暁孝に何度も話しかける。 信じてくれる子供は初めてだったから、暁孝は戸惑いながらも少しずつ教えてやると、智哉は何一つ見えないのに、凄い凄いと喜んで。 それからずっと、智哉は暁孝の支えだった。 智哉がいれば、自分はありのままで良いんだと、自分を肯定する事が出来た。 今こうしてしっかり二本足で立てているのも、勿論祖父母のお陰もあるが、智哉の存在は大きい。 「大丈夫だ、智、心配しなくていい」 「ごめん、暁、ごめん」 「だから謝るな、お前は何も悪くない」 俺が絶対守ってやる。そう告げる暁孝、そして智哉の様子をバックミラー越しに見て、始は、まずいな、と内心呟いた。 始の脳裏に過るのは、妖に意識を乗っ取られた人々の辛い末路だった。

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