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池に着いた頃は、すっかり夜を迎えていた。
「これじゃ、見えないな…」
車から降り、始は苦い顔をした。辺りは車道の他、山々と田畑ばかりで、道を照らす灯りも車道を照らすものだけ。車道から道を少し外れただけで、そこはすっかり暗闇の世界だ。
この辺りの部落では、大体このような暗闇だったと、いつだったか車窓から見た景色を始は思い出す。見上げる月明かり、地元の人々はよくこの中を歩けるなと、感心した。
「後で適当に理由つけてくれれば、灯りはつけられるけど」
「頼む」
リンの言葉に始が頷けば、リンは池の周辺を飛び回り、灯りを灯していく。かがり火のように、鮮やかな炎が幾つも空に浮かんだ。
一気に明るくなった一帯、お陰で池の様子がよく見える。
車道の下に下りてみると、昨日、斜面に空いた穴はまだ残っていた。リンに聞けば、地元の人々は猪や熊の仕業かと首を傾げているらしい。また地形が変われば、地元の人々を驚かせ怖がらせてしまうだろう。そういう地元の人々の不安も考えながら、妖とは渡りあわないといけない。暴力的ではない義一 の妖との接し方は、そういった点でも信頼が高く、人にも妖にも受け入れられた理由の一つかもしれない。
「静かだな…」
水面には、波紋一つ無いように見える。
「水の妖か…、アカツキに執着する妖、一体何者だろうな」
マコに聞こえないよう始が暁孝に呟くと、リンが空から降りてきた。
「あの妖、妙な気配が入り交じってて正体が掴めないんだ。でも、一つ気になることはある」
「何だ」
暁孝が問う。リンは、ちら、とマコに目をやる。マコの前では言えないという事は、マコと関わりのある妖なのだろうか、そちらに考えが捕らわれていると、繋いだ手をほどかれ、暁孝は智哉に目を向けた。智哉は池へ向かって一歩踏み出していた。
「待て、近づくな」
はっとして再び手を取ろうとすると、払いのけられてしまった。
その手の強さに驚いて智哉を見ると、その顔は虚ろに揺らいでいる。
「智!」
駆け出す智哉を追いかけるが、突然地面が揺れ出し、池から上がる水の柱が、智哉を追う暁孝やリンを阻むように襲いかかる。
「智哉!」
「おい!」
構わず駆け出す暁孝に、リンが慌ててその体を抑えて水の砲撃から逃がす。その間に、智哉は池へと飛び込んでしまった。
「智哉!リン、放せ!」
「落ち着けって!」
「落ち着いていられるか!」
暁孝はリンの腕を振りほどき池へ向かう。
「暁君!何する気だ!」
マコを庇いながら始が叫ぶ。暁孝は構わず智哉を追って池の中へ飛び込んだ。
リンが後を追おうとしたが、再び水の砲撃が邪魔をしてくる。
「アキ…」
マコは心配そうに呟き、首飾りを握りしめた。
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