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これは、夢だろうか。 暁孝は、とある森の中に居た。青々と茂る木々の騒めきを聞きながら歩いていると、立派な鳥居と社が見えてきた。側には小川も流れている。 「ヒノ、よく来たね。この森は君には荷が重いだろうに」 藍色の長い髪の男が振り返る。ヒノは社の側にやって来ると、心配そうな男とは対照的に、嬉しそうに頬を染めた。 「そんな事ありませんわ。あなたにお会い出来ない事の方が、辛いですもの」 そう言うヒノは、髪をしっかり纏め上げ、足元は長い服の裾で見えないよう隠してある。 その様子に、男は近くの切り株に座るよう促し、肌には触れぬようにその裾をたくし上げる。ヒノの足は酷い有り様だった。皮膚が爛れ、足先から膝まで傷だらけだ。ちゃんと履き物を履いているのに。 ヒノは頬を赤く染め、直ぐ様裾を下ろさせる。それは先程嬉しさに頬を染めたのとは違い、自分を恥じているようだった。 「お見苦しい姿を…」 俯くヒノに、男はそっと笑む。 「君はいつだって美しいよ。でもね、もうここへ来てはいけないよ」 「何故です?私なら構いません!このような傷、どうって事ありません!」 「私が辛いのだ、君の体にこの森は合わない…」 男はヒノの頬に触れようと手を伸ばし、触れる寸前で引き返した。 「私は、何故水の神なのだろう…君に触れる事さえ出来ないなんて」 悲しそうに笑む男に、ヒノはめげずに自らも触れようとしたが、それは余計に彼を傷つけると分かっている。だから、触れられない。 「…例え触れられずとも、誰に何を言われようとも、私の想いは変わりません」 ヒノは立ち上がり適当に木の枝を拾うと、枝の端を持ち、もう片方を男が持った。触れ合えない代わりに、言葉以上の気持ちを伝えたい時、二人はこのように物を間に挟んで手を繋ぐ。 「言われてしまったな。私も同じだよ。この心は君の元にある。この先も変わりなく」 「はい」 「次は私が君に会いに行くから待っていて欲しい。そうだ、君にプレゼントがあるんだ、マコ、頼めるかい?それから薬も持ってきてくれるかな」 その声に応じ、社の中からひょっこり顔を覗かせたのは、狐の尻尾を嬉しそうに揺らしたマコだった。 「はい!主様!」 微笑むマコに、これはいつかのアカツキとヒノの記憶だと暁孝は気づいた。 今では崩れた鳥居と社、社の建つこの土地も今より開けており、側に流れる小川も清らかな流れだ。一体これはどれ程前の森の姿なのか、この社に来るための山道も今より広く、人が行き来しているのが感じられる。 マコとヒノ、そしてアカツキの笑顔が、今では壊れてしまった、あの社のある森を明るく照らしていた。

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