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「んー……ならいっそ、半分ずつにしてみるってのは?」 「どう半分?」  問い返す滝口さんの声音は、やわらかくも真面目だ。篠宮君に近い方の片手をカタログ冊子……かと思っていたけれど、もしかすると場所ごとに分けてコピーした図面の束かなにかなのかもしれない。  そういう紙資料の上に伸ばして、そっと、指先を下へ引いた。 「こう? センターでざっくり二色に分けると、確かに、面白い使い方が出来るかもしれないな……」 「んーじゃなくて、表と裏」 「表と裏?」  優美、と言ってしまうと、少し女性的すぎるかもしれない。それでもそう言いたくなるくらいには甘めに整った滝口さんの顔立ちの中で、唯一、男らしさの色を足している形のいい眉。それを持ち上げて、滝口さんは意表を突かれたみたいに繰り返す。  うん、と篠宮君は頷いた。  滝口さんとの歳の差は八歳。そう聞いたことがあるから、篠宮君は二十五歳。僕の二つ下だ。でも、彼は物怖じしない。 「キッチンスタジオってさ、いろんな撮り方するじゃん。この前、智史からそういう話を聞いててちょっと思ったんだけど……。ほら、必ずこの方向から、こういう角度で撮ってください、なんてのもちろんないわけだし、料理人を外から撮って雰囲気だけ使ったりとか、カメラを中に入れて調理中のようすを接写したりとか……そういう、外から見るか中から見るかで、キッチンの色が違ってるのも面白いのかもしんないとか思って」 「ああ、なるほどね。梓はいろんなアイデアを持ってるな」 「……んー、どうだろ。やってみたら印象がとっちらかって逆に使いにくいとかあるのかも。あんまり誰もやってないことだったら、『やらない理由』がちゃんとあると思うし……」 「うん、わかった。それも含めて、一つのアイデアとしてもう一回デザイナーさんに投げ返してみよう。ありがとな、梓」  滝口さんは胸ポケットあたりからボールペンを引き抜くと、おそらくは篠宮君の話したアイデアをそのまま、さらりと紙資料に書き込む。  そうしてから、声音のとおり優しい笑顔で相手を労った。  それを当たり前に受ける篠宮君は、えへへと笑いながら、広い天板に腹這いになる。そうして、泳ぐみたいに身を伸ばした。……あのテーブルがいくらなのか、知ってるのかな。 (知ってる……だろうな)  滝口さんは必要以上には飾らない人だし、その恋人である篠宮君も、とてもフランクで分け隔てのない人だ。  傍目から見てもお似合いの二人。  お互い無理なく自然体のまま、いっしょの価値観を分け合う、素敵な人たち。

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