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「ご友人といっしょに経営されるそうです。撮影スタジオとしての貸し出しもありますし、もちろん滝口さんの仕事場にもなりますので、ご自身の著書や雑誌のコラムなどにも活用される予定です。いま現在はまだ内装工事の途中ですが、窓の大きな、素敵なスタジオになると思いますよ」 「へええ、知らなかったなあ。いや、聞いたのかもしれないけど、忘れちゃってた。だめだなあ」 「……だめってことはないと思いますが……」  手を休めたついでに、僕はお皿のケーキにフォークを入れてみる。クマさんお得意のウィークエンド。ふわっとレモンの香りが立った。 「なにより滝口さん自身、スタジオ経営はあくまで副産物的なもの、メインのお仕事は料理研究家でこれまでと変わらない、と話されてますから」  キッチンスタジオの共同出資者である藤田(ふじた)さんは、滝口さんの友人で、かつ、いくつものスタジオを持つやり手の経営者でもある。  僕も一度だけ会ったことがあるけれど、ファッションモデルみたいにスーツを着こなす洒落た人だ。滝口さんと気が合う人なだけあって、とてもフランクに接してくれる。 (でも、年商けっこうえぐかったりする……)  ホームページの会社概要欄に彼の名前を載せているスタジオはいくつも出てくるし、そのどれもが人気物件で評価も高い。当然、業績も高水準で安定していたりして、滝口さんの人脈の確かさには驚くほかなかった。 「じゃあ、紫藤君が『お手伝い』してるのは、そのキッチンスタジオの方?」 「僕が担当しているのは、会社内のシステム構築です」  現在、滝口さんの会社には、共同経営者の藤田さんと、秘書の行待さん、それに滝口さん本人の三人しかいない。藤田さんは「現場には口を出さない主義」だと自ら言っていたし、行待さんはもともと、事業者向けに秘書を派遣する会社の社員さんで、いまは十二月の円満退職に向けて準備中。つまり正確に言えば、彼女が滝口さんの会社に勤めるのは来年一月からだ。  あとはスタジオのオープン合わせで常駐する受付スタッフを雇おう、という方針は決まっているみたいだけれど、まだ募集はしていない。……内装工事が終わってオープンの見込みが立てば、どこかにちゃんと募集を出すんだろう。

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