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「しす……てむ、というと……」
「僕の前職が、システムエンジニアだったので……厳密に言えば業務でやってたこととは少し違うんですが、その腕を活かしてほしい、と頼まれたんです」
頭の周りに「?」をたくさん飛ばしている、ある意味とてもわかりやすいクマさんに、僕はどう伝えたものか思案しながら口を開く。
「ざっくり言うと、いまはひとまずホームページのひな型を作っています。滝口さん個人のオフィシャルサイトと、キッチンスタジオのものと。特にスタジオの方は、予約受付はほとんどサイトからのみとなるので……」
「……へええ」
ああ、わかってない。
でも、この手の話はどう噛み砕いたって理解出来ない人には理解出来ない。クマさんにもその自覚はあるみたいで、触らぬ神にたたりなし、じゃないけど、「大変そうだけど頑張ってね」という当たり障りのない言葉でそっと話題を流してくれた。
僕も笑顔を作って、「ありがとうございます」と素直に応援を受け取るだけに留めておく。
「じゃあまあつまり、紫藤君が滝口君のところへ通うのも、この冬まで、ってことになるんだね」
「……そうですね」
会社が無事に稼働してしまえば、各システムによほどの不具合でも起きないかぎり、僕が呼ばれることはない。……そしてもちろん、SEとしては、トラブルでの呼び出しなんてされない方が有難いんだった。
(あと三ヶ月……長くて四ヶ月くらい)
どれくらいで、恋は死ぬんだろう。
こんな気持ちが芽生えたのも、それが叶わずに散ることも、僕にとっては初めてのこと。だから正直、勝手はよくわからない。
たとえばいつの日にか、自然にふっと、消えてゆくもの……、なのかな。
だとしたら、なるべくそっと、ひそやかに、すべての月日が流れてゆけばいいな、と思った。
その静かな時間の流れはきっと、僕の気持ちを葬るのに似合った色をしているだろうから。
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