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 待ち合わせたコーヒーショップに着くと、見慣れた親友の背中はいつもの席にある。 「大輔(だいすけ)。お疲れさま」 「おー、瑠姫。お疲れ! つか、ごめんな」  大輔は僕の顔を見るなり、そんなふうに謝った。すっきりした短髪に、清潔感ある着こなしのスーツ。この幼馴染みは、『爽やかな好青年』を絵に描いたみたいな男だ。  それもそのはず。大輔の勤め先は、外国車のディーラー。  入社以来着実に顧客を増やしてきた若手のホープ・櫻河(さくらがわ)大輔氏は、五年目を迎えた今や何千万もする高級車をばんばん売り(さば)くやり手ディーラーに成長している。らしい。……どのくらい盛った話なのかは、僕はあえて追及しません。 「今さ、これ受け取ったばっかだわ」  大輔は申し訳なさげに言って、自身の手元にある皿を指し示す。生クリームが添えられた、シンプルなシフォンケーキ。 「もうちょい待つかと思ってた……つか、まあ、単に俺の小腹が空いてんだけどな」 「これからごはん食べに行くのに、ここで小腹満たしちゃうの?」  大輔の隣のスツールに腰掛けながら、僕は思わず呆れ声を吐いている。でもまあ、本人の自由ではあるか。 「僕ちゃんと待つから、慌てないでゆっくり食べてよ」 「悪い。ありがとな」 「いいえ」 「瑠姫もなんか頼めば?」  促されて、僕はちらりとレジカウンターを見る。ちらほらと人の列。そこそこ混み合う店内。何も持たずに一席埋めるのは、失礼かな。でも。 「お腹空いてるとこにコーヒーとか甘いもの入れると、気持ち悪くなるんだよね……」 「そりゃ難儀なことで」  大輔は軽く肩をすくめてみせると、後はもう、ケーキをどう崩すかの方に集中してしまう。僕はなんとなく苦笑して、目線を正面へ戻した。コーヒーショップのすぐ外は、駅の構内。時刻は帰宅ラッシュの只中。  やんわりと色の入ったガラス越しに、たくさんの人が行き来する。気付けばすっかり、コートの季節だ。

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