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「そういや瑠姫、今のとこ何年だっけ。会社」
「え? ええと……夏で二年だった、から。普通にそのまま、三年目だよ」
「順調?」
「うん……」
僕は大輔の真意を測ろうとして、その横顔を注視した。昔から大輔は僕に対して兄貴風を吹かせたがるけれど(同い年なのに!)、お互い大人になってからは、あんまりそういう態度も取らなくなってた、はず……。
「なんかさ、夢を見たんだよな」
「え?」
僕が不審がってることを察してか、大輔はケーキを食べる手を止めて、こっちを見た。
「瑠姫が引きこもってた頃の夢」
「……」
「おばさんから、話を聞いてさ……」
大輔の声音はひどく思慮深く響いて、僕の耳にも、心にも、ひときわ柔らかく触れる。
「俺はもちろんめっちゃびっくりして、取る物とりあえず慌てて会いに行くんだけど……瑠姫もさ、俺にだけは会ってくれるんだけど。でも、瑠姫が、顔もろくに見えないぐらい髪が伸びまくってて、高校のジャージがぶかぶかになるくらい痩せてて。……それがなんか、妙にリアルって言うか……もう何年も前のことなのに、今日、瑠姫からスマホにメッセージ入るまで、実はまだ瑠姫はあの暗い部屋ん中に閉じこもってるんじゃないかって、そんな気がして」
「僕もう大丈夫だよ」
大輔がどんなに気が好くて優しい人間なのかってことは、僕がいちばんよく知ってる。
あの当時、どれだけ心配させてしまったのか、ってことも。
だから僕は、大輔の視線をまっすぐに受け止めた。そうして、出来るかぎり静かな声を紡ぐ。静かで、力強く。
「大丈夫だよ。……もう、戻ったりしない。強がりとかじゃなくて、ほんとに」
「瑠姫……」
「今の会社、僕にとってすごく居心地が良いんだ。今まで生きてきた中でいちばん、ちゃんと人として接してもらえてるから。……なんて、ちょっと大げさだけど」
でも、僕の本心から言えば、なんにも大げさじゃない。
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