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 ぜんぶ、この顔のせい。 『瑠姫はさ、顔にまったく見合わない性格してるんだよなあ』  いつか呆れたみたいに苦笑してみせた大輔いわく、僕の性格は、僕の顔立ちと合わせるには「地味すぎる」らしい。 『普通こんだけ綺麗な顔してたら、中身もそれなりにキツくなるだろ。「お高くとまってる」「綺麗なバラにはトゲがある」って言うの、あれは俺、そうしないと自分を守れないからだと思うんだよな』  でも、僕にはそれがない。  だから変な人が寄ってくる。人間関係がこじれてしまう。僕は──自分の身を、守れない。 (その、せいで)  ぞわりと暗闇の記憶がうごめく気配がして、慌ててぎゅっと目を閉じた。ばかだ。どうして、昔のことなんか思い返してるんだ。  もう大丈夫。大丈夫だから。 『紫藤……、瑠姫?』  絶対のお守りみたいに、僕の中で「大丈夫」という言葉と、滝口さんの存在とが繋がってる。  いまふわりと蘇ったのは、いちばん最初に聴いた彼の声。 『へえ。かっこいい名前だね』  初めて会った時、滝口さんは陽なたの窓辺に立ってた。レッスンを終えたばかりのエプロン姿。教室の中には、あたたかなごはんのにおい。  がらりと前触れなく扉を開いてしまった僕に少し驚いたようすだったけれど、その表情はすぐ、そつのない笑顔へと変わった。  たぶんとても、『大人』な人。  それが彼への第一印象。 『紫藤君……うーん。もし嫌じゃなければ、瑠姫君、って呼んでもいい?』  僕はたしか、入社二日目。  これを補充しておいてと渡された、冷たいバターの箱を抱えてた。

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