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滝口さんはその箱にも気付いてくれて、僕を冷蔵庫の前まで手招きする。
同じ場所に立って、しかもわざわざ冷蔵庫の扉を開けてくれた彼は、僕のしゃちほこばった自己紹介を聞いた後でそんなふうに確認してきたんだった。
え? と目を丸めてしまった僕に向けて、悪戯をしかけるみたいに笑う。
『君と仲良くなりたいんだよ。ほら、君がこうして重たい物を持ってる時、友達なら、手を貸すのに理由なんていらないよね。そんなふうに、気兼ねない感じ。良いと思わない?』
僕はなんて応えたのだったかな……。よく覚えていないけれど、きっと「そうですね」とか「はい」とか、当たり障りがなくて無意味な相槌を返したんだろうと思う。
滝口さんは言葉どおり、僕の腕からバターの箱を取って、代わりに冷蔵庫へ入れてくれた。
業務用冷蔵庫の、平たい扉。銀色のそれを片手でぱたんと閉じてから、彼はやんわりと屈む。急な展開にぽかんとするだけの僕の目を、そうしてそっと、覗き込んでくる。……上から、覆い被さるみたいに。
『俺をいちばんに頼ってくれたら嬉しいな。瑠姫君』
滝口さんのすごいところは、それがただの社交辞令ではなかったところ。
彼は実際に、よく僕に声を掛けてくれた。僕が誰に訊いたらいいのかわからない困りごとなんかを抱えてたりすると、いちばんに察してフォローを入れてくれる。根本的に口下手な僕は、彼の気遣いに何度助けてもらったかわからない。
だから、僕はいつの間にか、滝口さんの姿を探すようになったんだ。
『岡山さんはこれまで秘書もマネも持ったことがないから、瑠姫君に本当の意味での「先輩」は居ないよね。俺はそういう人に支えてもらう側の立場ではあるけど、こうされたら有難いなって視点で教えることは出来るよ』
さすがに頼りすぎかもしれない、なんて僕の遠慮も、滝口さんは目聡く汲み取ってやわらかな安心感へ変えてくれる。
『それに瑠姫君も、俺相手になら気兼ねなく愚痴れるだろ? 俺はほら、事務室の人間じゃないからね』
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