僕が相談事を抱えている時はもちろん、特に何も抱えていなくても、よく二人でごはんに行った。 　最初はもっぱら、滝口さんからの誘い。 『瑠姫君、今日も定時？　少しだけ待っててくれれば、この前ちょっと話したあのカフェに連れてってあげられるよ』 　さりげなく僕の好奇心をくすぐる、上手な誘い方。「行こうよ」って声を掛けてきてくれる時の滝口さんがいつも楽しそうに笑っているから、僕の方も、嬉しい気持ちを抑えこんだりしなくてもよかった。「はい」、て頷いて、ぎりぎりで急ぎの仕事が飛び込んできたりしないよう願いながら、定時を待つ。 　そんなやり取りを一年くらい続けて、ようやく僕からも「今日、ごはんどうですか」って誘えるようになったんだ。 　そうして一年半ほど経つと、いっしょのごはんは僕たちの日常になってた。 　おしゃれなカフェや創作料理のお店を滝口さんから教わったり、話題の新オープン店へ行ってみたり。そんなよそゆきのごはんから、二人だとやっぱりここが落ち着くよね、みたいな行きつけの店が一つ二つ決まっていって、最後には、滝口さんの部屋でお手製ごはんをもらうことが当たり前になった。 　今から思えばめまいがしそうなほど、それはとてもとても贅沢な時間。 　もうどこにもない『日常』。 （僕はほんとに、すごく、すごく、甘えてたな……） 「お。なんだっけ、……滝口智史？」 「え、えっ!?」 　不意打ちの真隣からの発言に、僕は驚いて飛び退いたあまり、スツールを転げ落ちそうになる。大輔はとっさに支える腕を伸ばしてくれながら、「違った？」と心安く苦笑してみせた。 「え……な、なにが？」 「瑠姫がいま、頭ん中で思い浮かべてた人。俺が観測するかぎりで言うと、瑠姫がなんかこう得も言われぬ感じで幸せそうな顔をしてる時は、たいてい滝口サンのことを考えてるんだよな。当たり？」 「う……」 　まさにそのとおりではあるんだけど、さすがにこれは頷きたくない。恥ずかしすぎる。 「…………そうやって人のこと見透かすの、大輔ほんと良くないと思う……」 「はははっ」 　うううと唸りながら僕が精一杯の抵抗を呟くと、大輔は快活に笑い出す。「ごめんごめん」と眉を八の字にして謝るさまは、僕なんかの隣に置いておくにはもったいないくらい、爽やか好青年そのものだ。