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「大輔って時々、本気で性格わるいよね……」
「あのな、こういうのは人心掌握術に長けてるって言うんだよ。……と」
ふいに、大輔はなにかに気付いた顔をする。その表情はさっと硬くなった。あからさまに眉間を寄せて、警戒心を目線に乗せる。
「え?」
誰かが、いるってこと? 僕はそちらへ振り返ろうとした。それとちょうど同じタイミングで、よく知った柔らかな声音が僕の名前を呼ぶ。
「瑠姫君、奇遇だね」
「あれっ……、滝口さん? 篠宮君も……」
別方向の路地から歩いて来たんだろう二人の姿に、僕は目を丸くしてしまう。え? でも。大輔を振り向くと、僕の知り合いだと理解したからか、瞳のきつさは消えていた。それでも、営業職の人間にあるまじき無表情で二人を見つめている。
(二人、というか、滝口さんを警戒してる……?)
なんだろう。
さっき、コーヒーショップで話していた時は、むしろ(会ったこともないのに)全幅の信頼を寄せてるみたいな口振りだったのに。
「あ、えと、滝口さんたちも、ごはんですか」
どう判別したらいいのかわからない空気の中、慌てて言葉を引っ張り出したせいで、僕は訊くまでもないことを口にしている。
滝口さんはごく自然に、いつもの笑顔を向けてくれた。
「うん。瑠姫君も、だよね?」
「はい……」
「良ければ、俺たちと同席する? こっちは予約してるから、すぐ案内してもらえるよ。このお店はどの席も四人掛けだし、二人増えたところで特に迷惑にはならないんじゃないかな」
「えっ。でも、そんな」
僕はつい、篠宮君の方を窺ってしまう。
だって、二人にとって、これはデート……だよね?
「それ良い! 瑠姫、いっしょしよーよ」
僕が目線を向けるより一瞬早く、篠宮君は華やいだ声で言う。こちらに見せる笑顔は、彼の人懐っこさがよく表れていて、てらいなく明るい。
「ごはんの人数ってさ、ほんと多ければ多いほど楽しーじゃん? だからオレ、いろんな人とごはんするの好きなんだよね」
陽の光を一身に浴びて咲くひまわりみたいな篠宮君の笑顔を前にして、僕はぐ、と奥歯を噛み締める。口角が下がらないように、息を詰めた。
(滝口さんと篠宮君は、やっぱりよく似てる……)
行きつけのお店で知り合いと会ったら、相手がいやがらないかぎり、同席にしてもらう。そんなふうに、滝口さんもよく話してた。
その方が楽しいし、一人で食べるよりずっと美味しく感じるから、って。
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