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「本当に、遠慮はいらないよ」
僕の目を見つめて、滝口さんはこちらを気遣うみたいに微笑む。いつもの優しい表情。無理をしないで手助けが要る時は言うんだよ、そう慮ってくれる時とおなじ。
「どうかな? さすがに、お連れの方がそれはちょっと……って思われるかな」
「いいですよ」
僕が答えるより先に、大輔が声を発した。抑揚のない、平坦な声音。ともすれば怒っているようにも……もっと言うと、攻撃しているようにすら聞こえる。そんな声。
大輔はさらに、営業根性全開ですがなにか、みたいな笑顔を作ってみせる。その顔はしっかり笑っているけど、笑ってない。何より、目に敵意が透けてた。
「前々から、瑠姫がお世話になったっていう貴方と話してみたかったんですよ。俺」
「それは、……光栄だな」
そこまであからさまな大輔の態度に、滝口さんが気付かないはずがない。それでも、彼は穏やかな声で返す。
「梓と二人きりの食事じゃ少し寂しいなと思っていたから、同席してくれて嬉しいよ」
「やったー決まり! 早く入ろー!」
篠宮君は嬉しそうに声を上げると、元気に号令して、滝口さんの腕を引きながらお店ののれんを目指す。僕と大輔もその後に続いた。
滝口さんが僕とごはんをしてた頃は、そういえば一度もこういうことってなかったな、と僕はぼんやり思い返す。
いっしょに新しいお店を開拓してみることの方が多かったから、それも道理かもしれない。
でも、もしあの頃、今みたいなことになったら、僕はどうしただろう。──どう、思っただろう?
(……少なくとも、喜びはしない、かな……)
昔からずっと人間関係に苦労してきた僕にとって、「よく知らない人」はどうしても緊張してしまう存在。その相手がどんなににこやかで楽しい人だとしても、心の強張りを解くのには時間が掛かる。一度きりの食事では、きっと警戒心をゆるめることすら出来ない。
それに何より、僕がいっしょにごはんしたい人は「滝口さん」だった。
(すごく狭くて、小さな考え方してる)
これが、篠宮君と僕とで決定的に違うところ。……なんて。
そんなふうに比べてみたって、何の意味もない。わかっては、いるんだけどね。
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