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「櫻河君、日本酒はいける口?」 「あ~好きっすね」  僕がこっそりへこんでるうちに、コミュ強三人はそれぞれ自己紹介を終えたみたいだ。滝口さんは柔らかく問いながら、アルコールのメニューを大輔の手元へ差し出している。  大輔はごくフラットな愛想の良さで、向かいの席の二人に笑顔を見せてた。……最初のあの敵意はなんだったんだろ、ほんとに。 「でもまあ、今日はやめときます。そちらは?」 「今日の俺は、『運転手さん』だから」  やんわりと含みを持たせた答え方をして、滝口さんは傍らの篠宮君へ目線を向ける。僕には何のことかわからないそれは、でも、篠宮君には確かに意味を持って伝わったみたいだった。 「そー! オレ専属のね。つかやっと智史の車乗れた~。噂に違わぬ快適さでした」 「お粗末様です。というわけで俺は呑めないけど、梓は気にしなくてもいいよ」 「え~。でもダイスケさんも呑まないんでしょ? 瑠姫は?」 「あ、えと、僕は」  ふいに話を差し向けられて、僕は慌てて顔を上げる。とっさの返事が追いつかなくて、喉のところに声がもたついた。と。 「瑠姫君はお酒、苦手だよね」 「瑠姫は呑むの禁止な」  ……そのちょっとの間に、異なる二つの声音がそんなふうに答えている。僕はびっくりして、真向かいの滝口さんを見た。それから振り返って、大輔。 「なんだよ。瑠姫はどうせ、呑んでも気分悪くなるだけだろ」 「そ……うだけど……」  そりゃ、大輔はそう言うだろうけど。  僕はそれこそ二十歳になりたての頃から、親戚同士が集まるお正月や法事の席で、たびたびお酒によって体調を悪くしてる。なまじ乾杯の一杯だけは付き合えてしまうから、なおさら良くないんだけど……。宴席の、どんどん濃くなってゆくアルコールの匂いに、どうしても弱いんだった。悪くすると、頭ががんがんしてきてしまう。  大輔はそれを知ってる……というか、僕のようすにいちばんに気が付いて細々と介抱してくれるのが、いつだってこの従兄弟兼幼馴染みだ。  だから僕は、お酒に関しては大輔に頭が上がらない。  でも。 (最初の一杯とかなら、ほんとに美味しいから……)  滝口さんとのごはんでは、よくいっしょにグラスを傾けた。滝口さんの呑み方は本当に大人だし、食事に合わせたアルコールの選び方なんてものも、僕は彼から教わったんだ。……それこそ、滝口さんに連れられて来たこのお店で、僕は驚くぐらい口に合って呑みやすい日本酒の存在を知ったのに。  なのに、「苦手だよね」って。

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