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「そっすね。あなたが思うよりもずっと、俺と瑠姫とは長いですよ」 「そう」  大輔の返答を聞いた滝口さんは、もう一度僕を見る。穏やかな表情は変えないまま、ただやんわり自嘲するみたいに、唇の端を引いた。 「じゃあ、俺が瑠姫君に告白した時も、瑠姫君の心の中には櫻河君が居たんだね」 「──」  そんなの居ない。  誰も居ない。  だって、幻みたいに消えちゃったんだから。  ……僕に優しく手を差し伸ばしてくれる人は、もう。 (ちがう) (それであたりまえ、なのに)  滝口さんは、僕の親ってわけじゃない。恋人でも、もちろんない。彼が無条件に優しくする相手は、篠宮君ただひとり。  僕は、その手を掴み損ねただけ。  ──それだけの、たったひとつの現実を、覆せない。どうしても。  こんな時、もしも僕が……、たとえば大輔が言うみたいな「僕の容姿に似合った性格」だったら、どうするんだろう。ふと、そんなふうに思った。  そう。お高く止まって、トゲのある……。 (僕を手放すなんて、あなたは見る目がないね、とか)  そんな大っきくて強い自信が、本当に僕の中にあれば良かった。  この見た目のまま、たくさん恋をして、たくさんの人を弄んで、それでも愛されて。時々の失敗も、手痛い失恋も、成就した恋も、二人で迎える朝も。  そんなふうに積み重ねた経験が、あれば良かった。 (僕に、あるのは)  初めて育んだ、滝口さんへの恋心。ちっぽけな僕の木の傍で、ようやく蕾を持った小さな花。 (でも、どうしても咲けない花……)  蕾は重たく項垂れたまま、綻ぶことなく枯れてゆく。そんな運命が決まってる。  いまの僕に出来ることなんて、枯れ落ちるその日をただじっと待つこと。  ……それだけ、なんだよ。

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