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「瑠姫」
ふいに、大輔の声色が変わる。まるで全校集会で貧血を起こしてる子に気付くみたいな、そんな変わり方だった。
「瑠姫、わるい。ちょっとやり過ぎたな……。しんどいか?」
「……え? なに、それ。僕は平気だよ」
僕はゆっくりと瞬きしながら、大輔を見つめる。小学校の頃もよくモテてたこの幼馴染みが何を心配しているのか、よくわからなかった。
僕の心の中は変にゆったりとしていて、あんまり何も感じ取れない。
だから、しんどくはないよ。平気だよ。
「平気そうな顔じゃないから言ってる。無理すんな、頼むから」
「そんなふうに言われても、何も無理してないよ。変な大輔」
「瑠姫……」
大輔は一瞬だけ、すごく痛ましいものを見るように目を眇めた。でも、それはほんとに瞬きの間だけのこと。
「なら帰ろう。……すんません、せっかくの同席なんですが、俺らはここで失礼します」
「え? ちょっと、大輔……」
一人さっさと椅子を立った大輔は、ほら、とばかりに僕の片腕を掴む。
「こっからなら俺んちが近いか? 帰ったら俺がなんか作るからさ、それ二人で食って寝よう。その方がいい気がする。もし寝れなかったら夜通しゲームしてもいいし」
「そんなの大輔がゲームしたいだけじゃん……、ていうか、ほんとに急だし、ほんとに、失礼だよ」
「あーほんとな。ほんとそれだわ」
大輔は自嘲の念がにじむ声音で頷くと、潔くテーブルの方へ振り返った。僕の腕は掴んだまま、滝口さんと篠宮君に向かって頭を下げる。
「まじすいません。悪ノリし過ぎました。俺と瑠姫はただの幼馴染みじゃないっつっても、実際は従兄弟同士なだけです。本気でそれだけです。あー、こんなんで証明になるかどうかはわかりませんが、俺、今の彼女にプロポーズするんで」
「えっ!?」
そんなの初めて聞いた!
僕が思わず声を上げると、大輔は僕のことをちらっと見下ろして「後でな」って目配せしてくる。その面映ゆいみたいな苦笑顔を見たら、この場をまとめるための急なブラフでもなくて、ちゃんとほんとのことなんだってわかった。
(そうなんだ)
びっくりの後に、ふわりとした嬉しさが湧き上がってくる。ええかっこしいな大輔にしては珍しく、今の彼女さんとは素で喧嘩したり本人いわく「ありえない失敗」を晒しちゃったり、なんて、騒がしくも楽しそうに付き合ってるなあと思っていたけど……そっか。
この人となら家族になっても大丈夫、って、そんなふうに思えたんだ。
そんな相手に、大輔は出会えたんだ。
「大輔……」
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