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『ほんと、今更だ。……ごめん、瑠姫君』
(ごめん、って)
その一言が示すのは、もう、戻りはしないってこと。
だからなんにも、意味なんてない。──わかって、いるのに。
『なんで最初、滝口さんに対してあんなに態度悪かったのかって? 違うって。あれは、あの人が先に俺を敵視してんの』
え?
僕がごはん屋さんでのことを訊ねると、大輔はそんなふうに言った。目を丸くする僕に向かって、仕方なさそうに苦笑して。
『すっげえ顔してさ、俺のこと睨んできたんだよ。「なんでその子といっしょに居るんだ」とでも言いたげな……独占欲剥き出しっつの? だから、俺はまず身構えたわけ。高校の時にもいただろ、夏休みかなんかに、家まで勝手に会いに来たやつ。そんで俺のこと見て、瑠姫に怒鳴るんだよな。そいつ瑠姫君のなんなんだ、ってさ。いやおまえこそなんなんだっつの』
うん……。
あんまり思い出したくない、というか、思い返しても、どう考えたらいいのかわからない。そんな記憶だった。
僕はそのクラスメイトに実家の住所を教えたことはなかったはずだし、そもそも、ちゃんと会話をした覚えだってない。
その上、彼は二学期の教室でも僕に対してなんらかの弁明をしてくれるわけでもなかった。ただそのまま、なんにも話さずに、卒業した。
『似たようなやつは大学にもいたじゃん。俺が大学祭で遊びに行ったら、結局オトコがいんのかよとかなんとか、通り過ぎざまに罵ってきたやつ。瑠姫はああいう、まっとうなコミュニケーションすっ飛ばして我が物顔しようとする輩にも目、付けられやすいんだよな。だからまあ、瑠姫が名前呼ぶまで、俺はあの人をその類なんだなと思うしかなかったわけ』
でも、滝口さんってわかってからも、おかしな態度だったじゃん……。
『それはちょい反省はしてるよ。店でも謝ったろ。けど、なんで? ってのはさ、瑠姫はちゃんと、あの人に訊けよ』
なんで?
言われた傍からそう聞き返した僕に、大輔は肩を竦めてみせる。答えるつもりはない、ってことだった。でも、その顔はクリスマスプレゼントの在処を知ってる兄みたいに、明るくてやわらかい。
だから僕は、わからない振りで目を閉じた。
だって滝口さんは、「ごめん」って言ったのに。大輔の勝手な憶測より、滝口さん本人の言葉の方が重い。
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