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 そうじゃなきゃ、おかしい。  もしかしたら、なんて考えそうになるたび、僕はそんな自分自身が怖くなって、まるで嵐に怯える子供みたいに小さく縮こまっているしかなかった。  そうして気付けば二週間近く、僕の足は滝口さんのオフィスからは遠ざかってしまっていたんだ。  ちょうど岡山先生の方に大きなイベントが迫っていて、本業がにわかに慌ただしかったり。外注のPG(プログラマー)さんへと投げた社内システムの納品日も、まだもうちょっと先だったり。  ちょうどいい言い訳なら、いくつもあった。  それでも、営業日にして十日もメッセージアプリからの連絡だけ、なんて状態は、およそまともな社会人のすることじゃない。  わかってる。  ……わかってるだけで、動けない。こういう気持ちは、僕は、真っ暗な自室の中でいやというほど味わってきた。  もしかしたら、またあの場所へ戻ってしまうのかな……。  ぼんやりとそんなことを考えながら起ち上げたメールアプリに、『納品のご連絡』という件名を見つける。  ああ、迷ったらだめだ。  メールを確認してすぐ、スマートフォンから通話を繋ぐ。もし本人が出られなくても、彼は必ず留守番電話サービスを使っているから、空振りしてしまうことだけはない。 『瑠姫君?』  はたして数コールの後、電波越しに届いてきたのは、ちゃんと呼吸を感じられる滝口さんの声。  それはなんだか、水の向こうに響くみたいに聞こえてくる。  僕は奇妙にうすい現実感の中、当たり前に挨拶をして、ご無沙汰していることを謝罪して、それから、訪問の約束を取り付けた。 『うん。わかった、明日だね』  彼はやわらかな笑みを声音に乗せる。いつもどおりの穏やかさに、大人のユーモア。 『もうすっかりスタジオも完成したんだよ。だから明日は瑠姫君に、いちばん乗りの内覧をしてもらおうかな』

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