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「瑠姫君。俺と梓とのことは、もう聞いた?」
「えっ……」
「聞いてるんだね。高橋君かな。いずれどこかからは伝わるだろうと思っていたから、それはいいんだけど……もしかして、驚かせた?」
まるで本当に、初めて会った時みたいだ。
僕は大きな冷蔵庫を背にしていて、至近距離に立つ滝口さんを見上げている。うっかり心臓がおかしなことになるくらい距離が近いのは、滝口さんがその片手を冷蔵庫に着いたからだ。
それとなく距離を取ろうにも、逃げ場がない。
滝口さんは真意の見えない笑顔のまま、身長差のある僕のことを、覆い被さるようにして見下ろしている。
「……驚き、ました。お二人は、とても仲が良いと思っていたので……」
「瑠姫君のせいだよ。って言ったら、どうする?」
「!」
僕のせい?
「どうし、て……」
「俺がどうしても、瑠姫君のことを忘れられなかったから」
どうしても。
その言葉を放つ瞬間にだけ、滝口さんはぐっと眉根を寄せた。身の内の鋭い痛みに、耐えるみたいに。
「櫻河君と食事をした夜に、……正確には、いっしょのごはんをし損なって彼に君を奪われたんだけどね。その時に、俺はひどく絶望したんだよ。この現実はなんなんだろうって、ものすごく苦しくなった」
僕のすぐ後ろ、冷蔵庫の扉に、もう片方の腕も押し当てる。滝口さんはそうして、僕をすっかり影の中に沈める。
彼はいまにも、僕の上に崩れ落ちて来そうだった。その声は絞り出すみたいに、苦しげに響く。
「俺はあの時、君をどこにも行かせたくなかった。どうして、別の誰かが君の手を引いて、君にごはんを作ってあげるなんて言うんだ。どうしてそれが、俺の役目にならなかった? どうして瑠姫君は、俺のものにならなかったんだろう……」
「たきぐ、」
「わかってる。君が、俺に魅力を感じなかったからだ。瑠姫君を責めてるわけじゃないよ。これでも大人だから、分別はある。……ひとを好きになるのって、理屈じゃないんだ。君の心がなびかなくても、どうにもできない。どうしようもない……」
僕はどうすれば、いいんだろう。
いま、ここで彼に、「好きです」と告げたとして──それはちゃんと、意味を持って届くんだろうか。正真正銘、たったひとつの僕の恋なんだと、伝わるんだろうか。
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