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 もうとっくに相槌すら失くしている滝口さんは、ゆるりと自身の片手を持ち上げた。それはそのまま、自身の前髪を掴み込む。 「瑠姫、君……」 「僕は、よく大輔から言われてるんです。『顔に似合わないくらい性格が地味』って。見た目とのギャップがある……というか、見た目を裏切ってる、ってことなんですよね。だから、ほんとに、──ごめん、なさい」  最後の六文字を、僕は声を揺らさずに言わなきゃだめだった。でも出来なかった。は、と突かれたみたいに滝口さんが顔を上げて、僕と目が合う。  滝口さんが僕から目を逸らしたのは、どの話をしている時だっただろう。中高の頃? 就職をした後かな。  そうやってずっと、僕を見ないままでいてほしかったのに。 「滝口さんがイメージする『紫藤瑠姫』は、どこにも居ないです。僕は、……そんな人間じゃ、なくて」  なんて言えばいいんだろう。  いま、こちらを見る滝口さんの瞳は、その表情は、まるで僕に「嘘だと言ってくれ」って懇願するみたいだ。  ──それは、彼が初めて見せた、僕への否定。  滝口さんにとっての『紫藤瑠姫』は、なんだかすごく魅力的で、愛され上手で、篠宮君に似ていて。たぶん、滝口さんの『理想そのもの』なんだろう。  だから好きだと言ってくれた。どうしても忘れられない、とすら。でも。  ほんとの僕は違う。  ほんとの僕の話をしたら、「聞きたくなかった」って顔をされる。  ほんとの僕なんて、誰からも必要とされないってことだった。……そうかもしれない。だって、僕は。 「こんな顔じゃなければ、よかったです」  本当の自分の言葉は、なんて弱々しいんだろう。僕は何を取り繕うことも出来ないまま、ただ呟く。そんなこと聞かされても、滝口さんは困るだけ。わかっているのに、気遣えない。  だって、もう、こんなものしか残っていない。 『紫藤瑠姫』の綺麗な笑顔。そんな仮面はとっくに粉々で、僕の足元に、その白いカケラを広げるばかりだったから。

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