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(馬鹿みたいだ)
でも、俯きたくない。──陽の光を拒絶したら、せっかくの僕の花は腐ってしまう。
腐食したところからどうしようもなく生み出される毒は、僕の大切な恋をまるごと作り替えてゆく。それはたぶん、先輩や、部長と、おんなじなんだ。
いつか、滝口さん本人にその毒牙を向けるとも限らない。
そんなのいやだよ。
たとえ咲かないことがわかっている花だとしても、毒に蝕まれて朽ちながら生きろなんて思えない。
……僕は本当に、滝口さんと会って変わったんだ。強くなれた。優しくもなれた。それはほんのちょっとだけかもしれないけれど、でも。
周りの人のことが、ちゃんと見えるようになった。
いま、どんな言葉を掛けられたいのかなとか、僕がどう動けば、相手は次の仕事をやりやすくなるかな、とか。
そういうのと同じように──ううん。それよりももっとずっと時間と心を掛けて、たくさん、たくさん、考えたこと。
僕がいま、滝口さんのために出来ること。
(さよならするんだ)
いま、僕の心に光が差すとしたら、それは滝口さんから貰ったもの。
いっしょに過ごす時間が消えてしまっても、滝口さんから貰ったものまでは消えない。たとえ滝口さん本人にだって、僕から奪うことはもう出来ない。
だから、大丈夫。
ざっくり裂けた心臓の傷は、ゆっくり、ゆっくりと、透明な熱へと変わってゆく。それは僕のための祈り。
僕の、僕自身へ宛てた、ひとつの願い。
(叶うといいな)
──いつかまた、誰かに、恋が出来ますように……。
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