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ふと指を止めて目を遣る窓の外に、早い冬の夜が忍び寄っている。いつの間にか、すっかり陽の光がない。
窓辺の木々たちが曇り空へ広げる痩せた枝は、なんだかひどく寒々しく見えた。
キッチンスタジオでいったん滝口さんの前を辞して、僕が久しぶりのここ、事務室へやって来たのは、遅い午後。
それから何時間経っただろう。手元の作業は順調に進んでいるけれど、明日に持ち越さないことを考えたら、定時までに終えられるかどうかは微妙なラインだ。
僕が整えた無味乾燥なひな型に、デザイナーさんがお洒落で機能的な装飾を加えて、ホームページはほぼ完成。滝口さん個人の仕事用のものも、キッチンスタジオのものも、お客さんを迎え入れる玄関は出来上がった、ということになる。
いま手掛けているのは、会社を動かす内側のシステム。ホームページで受け取った予約情報を社内で共有することはもちろん、顧客情報を取り纏めたり、外部の決済システムと繋げたり。
滝口さんや行待さんとも話し合い、アイデアを出し合って、「この会社を回すための仕組み」を考え出した。
それを一つ一つ実現させていき、最後に全部で上手く噛み合うようにしてゆく。
僕の知識では根幹のシステムまでは組むことが出来なかったから、それはちゃんと外注に出しておいて、その納品を受けたのが今日。
あとは、すべてのシステムをリンクさせるだけ。……ここへ来られない間、スウィートホームクッキングの僕のパソコン内で仮組みもしていたし、そのデータも使えるから、実作業の量はほんとに残り少しだ。タスクリストの進行度で言えば、九十五パーセントくらい。
『お話を伺うかぎり、例の懸念箇所、三つともOKそうですね』
「そうですね……今のところは問題ないです」
いくつものウィンドウを重ねて開いた窮屈なモニター画面の隅、通話アプリから、接続中の相手のアイコンがちかちかと表示を変える。
聞こえてきたすっきりと男らしい声音の主は、フリーランスのプログラマー。いずれはシステムエンジニアの仕事もしたいと考えている、と自身のブログに綴っていた彼に、僕は今回の納品を機に滝口さんの会社でのSEの仕事を引き継いでもらいたい、と持ち掛けた。
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