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 もちろん、事前に滝口さんからの了承は得ているし、契約関係のやり取りなんかもたぶんもう行待さんが手掛けている。新しい依頼を得た相手先は、僕に謝意まで伝えてくれた。 『今のところは、なんてこっわいこと言わないでくださいよ』 「脅かすつもりはないんですけど……、でも、会社のシステムって生きものなので。テストがどれだけスムーズでも、実際に客先に渡して動かしたとたん、ぼろぼろ問題が発生するのがデフォルトです」 『いやいやいやいや』 「もちろん、そうならないように僕もやれることはやっておきます」 『それもうほんと頼みます。……ってとこで、今日、俺が覗えるのってこのへんですかね』  最初に約束した通話時間四十五分は、つい三分前に過ぎたところ。相手からのそつない申し出に、僕は頷き返そうとする。 「はい。ありがとうござ……、あ」  挨拶の途中で、ふ、と窓の方へ目線が引かれた。その理由を、僕は通話先からの声とともに知る。 『おー。雪ですね』  相手は意外にもここと近い住所に居るのか、それとも、雪雲の範囲が広いのかな。  どっちにしろ、ちょっと珍しいくらい大粒の雪が、絶え間なくどんどん降って来ていた。僕は相手先と「今日は降るって天気予報も言ってましたね」なんて他愛もない話をしてから通話を切る。  お疲れさまでした、と言い終えた後も、手元の作業はまだ残ってる。なのに、大人しくパソコン前に座っている気分じゃなくなってしまってた。  僕はそろりと椅子を立って、窓辺に近付く。 (雪だ)  そっと指先で触れた窓ガラスが、きんと冷たい。  そのガラスを開いて、思わず手のひらに受け止めたくなるくらいに大きな結晶の塊。それらが次から次へと空気を滑って落ちてくるさまは、まるで世界の時間を止めようとする魔法みたいだ。  ……ゆっくりと静かに。でも、驚くほどあっという間に。  何もかもを白く塗りつぶして、そこに確実な死と、凛とした再生をもたらしてくれる。 「積もるかな……」  子供の頃みたいに、積もってほしいな、なんて思ってしまう。  なんにも見えなくなった銀世界を、ひとりで歩いてみたい。……肺がじんと痛むくらい冷え切った空気を吸って。耳の先がぴりぴりする雪の朝。広く白い晴れた空と、その下にぽつぽつと続く自分の足跡。  僕はきっと、そんな世界に見つけるから。  たったひとつ、真っ黒な。  色褪せてカラカラの、──枯れた蕾を。

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