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ゆっくりゆっくりパソコンを閉じて、何度も何度も窓に降る雪を見てた。
いま、僕の心を支えてくれるものがあるとすれば、静かにこの世界を白く塗り替えてくれている、あの雪だけ。
もう出よう、とエアコンを切ったのが、……何分前だろう。
時計は見てても、時間はわからない。
事務室の中はすっかり冷えて、僕はコートの前をしっかりと合わせ直す。このまま心まで凍えて、何も感じなくならないかな……。
はあ、と幾度目かの溜息。
そうして僕は、事務室の照明を落とす。廊下はひどく暗い。だから、迷いなく歩けた。明るい光よりも、冷たい暗闇の方が、今の僕には有難い。どんな顔をしていても、拒まずに迎えてくれる気がするから。
でも当然だけど、暗い道はずっとは続かないんだ。
廊下の先は、スタジオから溢れ出る光でまばゆく照らされてた。それを見て、僕の足は止まってしまう。
滝口さんが扉を閉め忘れたのか、もしくは、もし僕が無言で立ち去っても気付けるように、あえて開けておいたのかもしれない。
だとしたら、僕がここまで歩いて来たことも、──なのに急に立ち止まって躊躇っていることも、ぜんぶ伝わってる……。
僕はぐ、と奥歯を噛み締める。がんばれ。最後なんだから。
もう、これで終わりだから。
すうと息を吸い込んで、一歩を踏み出す。その瞬間。
「こら。なんで電話してきてるんだ、梓」
「──」
『だって雪じゃん! 見た? 見てる? オレさっき気付いたよ、今日ずっと寝てたから、休みだったから! えーっ待って何これ、めっちゃロマンチックじゃん! なのにオレ、いま誰も掴まんないんだよ、そんなの寂しすぎて耐えらんない!』
通話越しの元気な声が、じわりと廊下まで響いてくる。滝口さんはキッチンに立っているか何かで、その手が塞がっているんだろう。スピーカーで受けた電話。
一瞬、聞き間違いかと思ったのに、本当に、篠宮君だ……。
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