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滝口さんのマンションへ移動してすぐ、僕が借りることになったのは、バスルーム。
たっぷり雪の冷たさが染み込んだコートとマフラーを取り去ってなお、僕の全身は冷え切っているままだったから、とにかくあったかくしてきなさいと家主の手でそこへ放りこまれたんだった。
ちゃんとお湯を張るんだよ、と言われたとおり、湯船にまで浸かって、ぬくぬくになってリビングへ戻ると、付けっぱなしのテレビからは、大雪情報だとか運行が休止された電車の路線名だとかが声高に伝えられてた。
滝口さんの車に乗せてもらって走った道路も、窓の外、急ぐ人たちの頭上にどんどん大粒の雪が降り積もってたのを思い返す。雪はこのまま夜半過ぎまで降り続く予報だ、とアナウンサーが緊迫感のある声音で繰り返してた。
そんなニュースをぼんやり見ている僕の背に、ふわっと確かな重みのある温もりが覆い被さる。
「瑠姫君」
「えっ……」
すぐ耳もとに、滝口さんの声。それで僕は、ようやく、彼に後ろから抱き付かれているんだと理解する。えっ。
「え、な、えっ」
「良かった。ちゃんとあったかい」
心底ほっとしたみたいに、滝口さんが息を吐く。……心配、してくれたのかな。僕はわたわたとうろたえる気持ちをとりあえず横に追いやって、小さく口を開く。
「あの、心配掛けて、ごめんなさい」
「そこで謝っちゃうのが、瑠姫君だよね」
「え?」
なんだかすごく微笑ましげに言われた気がして、僕は彼を振り返る。やわらかく腕を開いてくれた滝口さんは、僕とまっすぐ目が合うのを待ってから、嬉しそうな笑顔のまま訊いた。
「キス、してもいい?」
「えっ!?」
びっくりして、僕は場違いなくらいに大きな声を放ってしまう。それでも、滝口さんは動じない。ただ少しだけ、首を傾げてみせた。
「だめ?」
「……」
だめでは、ない、です。
そう答えるしかなかった僕は、初めての(好きな人との)キスをたくさんたくさん重ねて、重ねすぎて、ついにはへにゃりと床にへたりこんでしまってた。
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