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「瑠姫君」 「ん、……ん」  ずるずる沈んでく僕を、滝口さんのキスが途切れ途切れに追い掛けてくる。そうして最後には、まるで大きな翼でくるむみたいに僕をしっかりと抱き止めてくれた。 「気持ちよくなりすぎて、もう、立てない?」  優しく問いながら、滝口さんの温もりもそっと覆い被さってくる。僕のてのひらには、毛足の長いラグの感触。それを握って、僕はこの短い間にすっかり欲張りになってしまった舌先を伸ばした。また、彼のキスを受け入れる。  滝口さんの体温は、気持ちいい。唇も。甘く笑みを含んだ、声も。  どうしてこんな人が、この世界に居るんだろう。 「ん……」 「……困ったな。ごはんを、作ってあげようと思ってたのに……」  キスの合間に零される、滝口さんの独り言すら、僕の心をやわらかくくすぐる。と。 「っ……」  ふいに僕の頭を抱き込んだ滝口さんが、ふるっとその身を震わせた。それで、僕は我に返る。そうだ。  僕を追い掛けて、あの時、滝口さんもいっしょに雪に降られたんだから──冷えてないはず、ないんだ。 「滝口さん、お風呂、に」  入ってください。そう言うために、僕は彼の背中に手を回す。セーターの感触が冷たい。着の身着のまま駆け出すことになった滝口さんは、当然、コートを羽織って雪の中に出たわけじゃなかった。 「僕……なんかより、よっぽど、冷えてる……」 「そんなことないよ。瑠姫君の方が、ずっと冷たかった。唇が真っ青だったの、ぜんぜん自覚してないでしょう」 「でも、僕はいま、ちゃんとあったかいです。だから」  頭の中はまだどこかふわふわしていて、うまく言葉を繋げられない。それでも、僕は滝口さんにお風呂を促す。キスにはもう届かない距離で僕と目を合わせた彼は、名残惜しむみたいに眉を下げた。……そんな顔をされると、とてつもなくわるいことをしてる気持ちになる。  だけど、風邪なんて引かれたくない。  僕の葛藤が伝わったのか、滝口さんはふわっと目じりに優しい笑みを刻んだ。それから、「わかった。入ってくるよ」と立ち上がる。  数十分前、僕に対してそうしてくれたみたいに、寝室のクローゼットから自身の部屋着を取り出して来て、それを片手に、浴室へ向かった。 「じゃあ、瑠姫君はしばらく楽に過ごしてて。どうしてもお腹が空いたら、食べられそうなものを適当に食べちゃっても大丈夫だからね」

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