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滝口さんのマンションの部屋は、彼が作ったスタジオのリビング部分と似た雰囲気がある。久しぶりに上がらせてもらったけれど、それはまったく変わってなかった。
すっきりとお洒落な北欧風。もちろん、オフィシャルな場所であるスタジオに比べれば、こちらはもっとずっとざっくばらんとしている。そのどこかほっとするようなくだけた空気は、彼の日々の暮らしが生み出す生活感そのもの。
見回す家具のひとつひとつに、普段、滝口さんがそこでどう過ごしているのかを想像出来る気がするんだ。
大型テレビの前には、大きなソファが二組。広いダイニングスペースにちゃんとテーブルもあって、その奥の壁際に、簡易的ながらもしっかりと存在感のあるバーカウンター。きれいに並べられた、色とりどりの瓶とグラスが目に楽しい。
ここは、人がたくさん集う部屋。
たとえば甥っ子姪っ子連れのきょうだいや家族を呼び集めて大きなテレビでゲームするのかもしれないし、多趣味な彼の趣味仲間を招いてワインパーティーやパン作りを楽しむのかもしれない。気の合う仲間とあれこれ話し、笑いながら、好きなお酒やおつまみを作って気兼ねなく夜を過ごす。そんな光景は、この部屋にとてもしっくりとはまる。
『でもこの人さ、絶っ対に自分の部屋と寝室には、他人は入れないんだよ。自分と恋人だけ。そこだけは徹底してんの』
俺も何度もこの人の部屋でタコパに鍋パにホームパーティーにって騒いでるけどさあ、といつだったか話してくれたのは、藤田さん。
『誰だかが飲み潰れても、介抱するのにベッド貸してあげてるなんて見たことないよね。まあ、そこできっちりプライベートの線引き出来てるならいいか、って俺はむしろ安心したクチだけどさ。やたら人好きして人たらしで、間違いなく八方美人のこの人がさ、誰にも許さない聖域をちゃんと持ってんの。えらく人間ぽくていいじゃん』
脈絡なくそんなことを思い出しながら、僕はソファに沈み込んで、ニュース映像の中の街が真っ白な雪に染められてゆくのをぼんやりと見つめてた。お腹……は空いているような気もするけど、冷蔵庫を覗きに行こうと思うほどの強い食欲はない。
ただなんだか、体中がくったりとしていて、変に眠いような、さみしい、ような。
(なんだろう)
滝口さん、早くお風呂上がって来ないかな。
僕から彼にお湯を勧めたのに、気付けばそんなことを考えてる。
(触り、たいな……)
あったかい体に触れて、ぎゅうと抱き付いて。おっきな腕で包んでもらって、おんなじ体温になりたい。
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