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「瑠姫君……」 「ぎゅって、したい。……だめ? ですか」  だめだよってもし、拒否されたら。それを想像したら、ゆると視界がゆるむ。こわいよ。こわいのに、ねだってしまった言葉はもう戻ってこない。  滝口さんはただじっと僕を見つめて、自身の内側でなにかを考えてるみたいだった。  ずっと持ち上げてることに疲れてゆっくり落ちてく僕の手を、ちゃんと両手分を、彼が掴む。「瑠姫君」と僕を呼びながら、右と左と、両方のてのひらに、ひとつずつキスをくれた。 「だめじゃないよ。いいよ、ぎゅってしよう」 「うん」 「……煩悩をシャワーで流しておいて良かった」 「?」 「ごめん、気にしないで」  滝口さんは苦く笑ってから、ふわりと、僕の上に降りて来る。彼の体重分、ソファが深く沈むのといっしょに、真っ白な雪にも似た羽毛が天井へと舞い上がった。……そんな錯覚を覚えたせいで、一瞬、天地がわからなくなる。 「滝口さん……キス、」  して。ゆるやかな夢見心地のまま、僕は拙い言葉を紡いでた。  滝口さんがやわらかく笑う。 「キス、好き?」  ひそやかに問われて、僕は小さく頷いて返す。 「良かった」  滝口さんの零した安堵は、すぐに僕の呼吸の中へ溶け込んで、二人の温度になってゆく。丁寧な復習みたいにやわくついばまれたかと思うと、強引に舌先を押しこまれて、「んん」と喉が震えた。  僕は彼の背中に手を回して、ふわふわのスウェットに縋る。もっと。もっと溺れたい。  こんな欲望、僕のどこに潜んでたんだろう。 「──瑠姫君」  濡れたリップ音を立てて、なかば強引にキスを離した滝口さんが、僕を片腕に抱き締めたまま、僕の手を取る。そうして、耳もとにそうっと甘い囁きをくれた。 「おいで。ベッドに行こう」 「?」  だってもう止まらないよ……、と答えた滝口さんの声は、ほとんど吐息だ。それはどこか観念するみたいに響いた。さっき一回抜いたのに、なんて、困ったように独白して。

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