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「わかってたけど、自分の手じゃぜんぜん納まんないよ。瑠姫君の唇がやわらかすぎて、ちっちゃい舌があんまりに甘くて、それで一生懸命、俺に応えてくれるのがたまんない。俺の軟弱な理性なんかとっくに吹き飛ばされてカケラも残ってないよ。だから、だけど、せめてここではやめよう? うっかりソファなんかで抱いた日には、瑠姫君きっと、丸一日起き上がれなくなるよ」
「僕……滝口さん、に、抱かれる、の?」
「うん」
ぜんぶの食材が揃ってるキッチンで、いまからこれを作るよ、って教えてくれる時みたいに、滝口さんが頷く。
それはじんわりと甘い痺れの波を、僕の身体に生み出した。
(あ)
すかすかするさみしさが、その波に揺られて、泡のように消えてゆく。代わりに、ぽわんぽわんといくつも熱が灯るみたいだった。これ、たぶん、嬉しい。
僕はいま、嬉しいんだ。
相変わらずとろりと眠くて、まったく動けない。そんな僕のようすに気付くと、滝口さんは僕の体の下にその腕を差し込んで、危なげなく持ち上げる。そうして、言うんだ。
「いやなら、ちゃんとそう言わなきゃだめだよ?」
いたずらでくすぐるみたいな、やわらかな声で。
せっかく入った寝室だけど、部屋の中はゆるやかに暗いままで、ほとんど何も見えない。僕を運んで歩きながら、滝口さんは壁の低いところに光るランプを付けただけ。
なんだかまるで、大きな洞窟みたいだ。
それは深い深い暗闇に、くるんとまるごと包まれる場所。
僕たち以外の世界はぜんぶ、いまはもう、白い雪の中に消えてる。
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