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「ぁ、んっん、あ……っ」
キスを、されてる。胸に。僕は背をよじって、その淫らな刺激から逃れようとした。だって。
「瑠姫君」
「ん、んっあ、ああっ」
「こっち、脱がせてもいい?」
滝口さんの、すんなりと指の長い手が、僕の下腹に触れてる。そこで熱くなっているものを、さらりと撫でた。
いやだったら、言うんだよ。
最初にそう、滝口さんは言ったけれど、それはつまり、「いや」と言わないかぎりは「いい」って意味になるみたいだった。熱っぽい息を吐くだけで精一杯の僕を慎重に見下ろしながら、滝口さんは僕の借り物のスウェットを下ろす。
「もしかして、ずっと勃ってたの? いっぱい濡れて、ぐちゃぐちゃになってるよ」
「……っごめ、な、さ」
下着の布地に形を浮き上がらせているそこを、指先で辿られて、布の中で直接、握られて。そんな、そんなこと。
想像もしなかった。
恥ずかしいのかどうかもわからない。ただ気持ちが混乱して、僕は腕で目元を隠した。逃げ込める場所なんて、自分の片腕の下くらいしか、なくて。
「どうして謝るの」
頼りないバリケード。それはすぐに、滝口さんの手が取り払ってしまう。真上からまっすぐに僕を見つめた彼は、なんだか仕方なさそうに微笑んでいる。……すぐに泣き出す困った子供を、あやすみたいに。
「気持ちいいのは、瑠姫君が身体のぜんぶで俺を好きってことでしょう。だから、隠さないで。ちゃんと見せて」
「……」
好き。
そうだ、もう伝えても、いいんだ。
「俺に教えて」
ね、と目じりをとろけさせるみたいに笑う、滝口さんの表情が、どうしてか本当に幸せそうで、僕は次の息を継ぐのさえ忘れてしまう。……今まで見てきたどんな滝口さんよりも、ずっと、ずっと儚くて、すぐに消えてしまいそうだと思った。
(滝口さんの方が、綺麗だよ)
こんな人が、居るんだ。
ねえ。僕を見つけてくれて、本当にありがとう。
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