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第3話
男児が産まれたならば必ずと言ってよいほど軍人に育て上げるヴェルリエ家は、代々近衛隊長を拝命している王家の信頼厚き武官の上級貴族だ。そんなヴェルリエの名と母譲りの美しい容姿に、武官の最高位ともいえる元帥の位は王がリュシアンをそういう意味で寵愛しているからだと以前は噂されていた。そんな噂を我が身を持って否定するべく、剣の腕を磨き続け、常に冷静沈着であるように努め、時には下級兵であっても自ら稽古をつけては指導した。誰も〝お飾りだ〟と言えないように、そうリュシアンは自分を律し続けた。そのかいもあってそんな噂もどこかへ消え、水晶の儀でシェリダンが王妃に選ばれてからは隠そうともしないアルフレッドの溺愛と独占欲を人々は目の当たりにし、リュシアンが王の〝そういう意味での〟寵臣だとは誰も思わなくなったのだ。
名家の産まれで、それに恥じぬ実力と地位を持ち、王と王妃の信頼も厚い麗しの近衛隊長。非の打ちどころもなく、さぞ順風満帆な人生を送っているだろうと思われているリュシアンは、しかし駆ける愛馬に身を任せながら深々とため息をついていた。
(休暇など、いらないのに……)
本来ならばもろ手を挙げて喜ばれるであろう二日間の休暇。実際リュシアン以外でセレニエ離宮に随行した近衛たちはとても喜んでいた。長期休暇でもない限り連休など滅多にない。皆が喜ぶのも当然だろう。だがリュシアンは、この休暇に気分が沈むばかりだ。
屋敷に帰るのが億劫だ。だが母は結婚するわけでもないのにリュシアンが屋敷を出るのは大反対で、母をいつまでも変わることなく愛している父もリュシアンを出そうとはしてくれない。王夫婦と共にリュシアンがセレニエ離宮から帰ってくることは両親も勿論知っている。帰らなければ、後々面倒になる。
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