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第6話

「そうでしたか。子供たちも遊び仲間がいるので今頃楽しんでいることでしょう」  ようやく微かにほほ笑んだリュシアンに母の瞳が煌く。 「ねぇリュシアン。あなたももう良い歳だわ。気に入ったお嬢さんはいないの?」  ピクリ、とリュシアンの顔が強張る。そして自分の迂闊さに胸の内で舌打ちした。どうやら自分で一番嫌な話題を引き出してしまったらしい。 「リュシアン、私の所にもお父様の所にもあなたのお嫁さんになりたいというご令嬢のご両親から釣書や肖像画が沢山送られてきているのよ。せめてそれに目を通してちょうだい」 「母上、見る必要はありません。その釣書やら肖像画やらは送り返してください。跡継ぎは兄上がおりますし、兄上にも三人の男児がおります。ならば私が結婚しなくとも何も問題はないはずです」  それにまだ若すぎると結婚こそしていないが、ナゼルにも許嫁がいるのだ。リュシアンが独り身でいたところでさしたる問題はない。 「リュシアン、そう怖い顔をするな。妻に似て美しい顔をしているというのに、台無しだ」 「お言葉ですが父上、私は男でございますから顔の美醜など気にしません。それほどまでに言われるのでしたらずっと母上のお顔を見ておられれば良いのです」  最愛の妻のためと口を出した父にさえリュシアンは容赦がない。取り付く島もないとはこのことだが、我が子相手に母も引き下がる様子を見せない。 「リュシアン、そんなに怒らずに聞いてちょうだい? ご令嬢もそうだけれど、そのご両親たちからも、あなたとても評判が良いのよ。是非にとお声がかかって、リュシアンが選ぶことのできるうちにせめて婚約だけでも――」 「母上、何度も申しますが、誰に願われようと結婚する気はありません。したがって婚約も必要ない。そのご婦人やご令嬢が見ているのは近衛隊長。確かに煌びやかな隊服を纏っていれば良くも見えましょう。だが、隊服を脱げばただの凡人です。私は勿論、そんな人間を夫に持つなど憧れが強ければ強いほど失望も大きく、ご令嬢にも不幸でございましょう」  このヴェルリエ家を継ぐ者がいないから、というのであれば多少は考えなければいけないのかもしれないが、跡継ぎは心配しなくてよいほど候補が沢山いる。そんなリュシアンの考えを敏感に悟ったのか、母は悲しそうに眉尻を下げた。リュシアンとよく似た面差しの母。しかし凛とした空気を纏うリュシアンと違い、母が纏う儚げな空気は、ひとえに目元の違いだろう。母にこんな顔をされてはリュシアンはもとより、父に似て少々いかつい顔をしているクレールやナゼルも罪悪感を覚えてしまう。

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