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第11話
「本当に晩餐に来ないの? 俺とリューの休暇が被ることなんてそうそう無いのに」
確かに、二人とも要職についているため忙しい身だ。だがかつては政務に忙殺され屋敷に戻ることのできない日も少なくなかったリオンは、シェリダンが王妃になってからは少し余裕が出たようで毎日屋敷に帰ることかでき、休暇もある。シェリダンは有能だが、宰相補佐よりも王妃の方が動きやすいのだろう。いかに正しくとも権力が無ければできないことも、ままある。
時間ができる度にリオンはリュシアンにやれ晩餐だ、やれお茶だと誘ってくるが、リュシアンの方はその度に夜勤だ会議だと言って断り続けてきた。だが今回はアルフレッドが与えた休暇。仕事だという理由は使えず、それ以外にリュシアンが理由を持たないこともリオンは知っているのだ。だからだろう、今日は諦めずに誘ってくる。
「行く必要がどこに? お前もせっかくの休暇なのだから私なんぞに構ってないで、好きに満喫したらどうだ。お前が望むなら多くの者がお前の為に時間を割くだろうに」
それこそ、リオンが望まなかったとしてもご令嬢方が放ってはおかないだろう。何を言っても靡かないリュシアン相手に晩餐だお茶だと誘うよりも、そちらの方がリオンにとってははるかに有意義であろうに。だがリオンはわかってないな、というかのように肩をすくめた。
「俺はご令嬢方と自慢話や色恋話をしたいんじゃなくて、リューと普通にゆっくりと話したいんだけど」
いつの間にか真っ赤に染まった空を背に、リオンは笑みを浮かべてリュシアンを見ている。わかっている、リオンの本心なんて。彼は優しいから、ひたすらにリュシアンを気遣っているのだ。わかってはいるが、どうしてもリュシアンには煩わしくて、気持ちが苛立ってしまう。このままでは理不尽に怒鳴ってしまいそうで、リュシアンは足早に愛馬に近づきひらりと騎乗した。
「不要だ。……リオン、時は流れた。もう私を気に掛ける必要はない。幼馴染として何かをしなければならないと思っているのなら、そんなことは考えるな。お前はお前の生きたいように生きればいい。私に縛られる必要はない。確かにお前は私の幼馴染だ。だが、それだけだ」
リオンの応えを聞きたくなくて、リュシアンは愛馬の横腹を蹴った。その合図に愛馬は駆けて行く。
「生きたいように生きているんだけどね、これでも」
背中に投げられた言葉は、リュシアンの耳に届くことはなかった。愛馬の駆ける音、吹き付ける風だけを感じて、だというのに波立った心は治まる気配がない。
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