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第2話

軽いノックの音がしてジャックがファイルから顔を上がると、ガラス張りのジャックのオフィスのドアの向こうにアラーナが立っていた。 ジャックが「どうぞ」と言うと、アラーナがにこやかにオフィスに入って来る。 「ジャック、ウィルを知らない? 今日の講義は午前中だけだったのよね?」 「鑑識室じゃないですか? 午後にもう一度証拠を見ると言っていた」 「証拠なんて!」 アラーナが信じられないとばかりに言う。 「昨日あなた達が八年越しで追っていた犯人を逮捕して有罪にして刑務所送りにしたパーティをしたばかりじゃないの! これ以上一体何を探すの?」 「それはウィルにしか分かりませんよ、ブルーム博士。 FBIが総出で八年越しで捜索していた犯人を、ウィルはたった一度の分析で犯人像を割り出した。 そして三日で逮捕出来た。 ウィルの脳の機能はウィルにしか理解出来ません」 「それが心配なんです!」 アラーナがピシャリと断言する。 「ウィルは捜査に加わった途端、心身共にどんどん弱っていっている。 もしこれからも捜査に加える気なら、記録に残らないように外部の精神科医に診せるべきです」 「例えば…レクター博士?」 「ええ、そう。 彼は私の恩師で友人で信頼出来る最高の精神科医です。 彼は天才よ」 ジャックが眉一本動かさずに言う。 「それは分かっています。 私だって妻が亡くなる前には大変お世話になった。 だがウィルは精神分析される事を望んではいない。 それはウィル本人が決める事です」 「それなら今後の捜査に『グレアム捜査官』を立ち会わせる時には、外部の精神科医が必要だと上層部に報告しておきます」 アラーナはそう言うとジャックに背を向けオフィスを出て行った。 行動科学課のジミー・プライスとブライアン・ゼラーがウィルの姿を鑑識室の少し離れた場所から見ている。 「ウィルは有罪になった証拠を何でまた見てるんだ?」 プライスが小声で言うとライアンも小声で「俺が知るか!」と答える。 するとそこにやはり行動科学課の一員のビヴァリー・キャッツがやって来た。 ビヴァリーは二人に「ウィルは何をしてるの?」と訊いたが、二人揃って「さあね」としか答えが返って来なかったので、さっさとウィルの元に行った。 ウィルを驚かさないようにビヴァリーが静かに声を掛ける。 「ウィル、何をしてるの?」 「やあ、ビヴァリー。 証拠を見てるんだ」 「なぜ? もう見る必要はないでしょう?」 「…なんて言うか…頭の中から犯人の思考が離れてくれない。 だから証拠を見てもう終わった事だと確かめたいんだ…たぶん」 ビヴァリーが「たぶん、ね」と言って小さく息を吐くと、「作業が終わったらきちんと片付けてね。ジミーとブライアンにはあなたには近付かないように言っとくわ」と続けて、くるりと振り返る。 「ありがとう」と返したウィルは、一度も証拠品から目を離さなかった。 20時。 ウィルが郊外にある自宅に帰ると、窓から灯りが見えた。 ウィルが車を停め玄関前のポーチに登ると、沢山の犬達が玄関ドアの前で待っているのが分かる。 ウィルが玄関の鍵を開けて「ただいま」と言ってしゃがむと、犬達に向かって笑顔で両手を広げる。 犬達が嬉しそうにウィルの腕の中に集まる。 すると奥のキッチンからジャックが出て来た。 「おかえり。 随分遅かったな」 「ジャック! 来てたんですか? でも車が無かった」 ジャックがフフッと笑う。 「裏に停めておいたんだ。 驚いたか?」 「ええ」 「もっと驚くことかあるぞ。 俺の手料理だ!」 ウィルが目を見開く。 「手料理!? あなたが?」 「まあ簡単なスープだ。 でもパンは美味いぞ。 なんたってパン屋で買って来たからな。 明日の朝の分もある」 「ジャック…!」 「ほらいつまでも犬達に囲まれてないで、新米シェフにただいまの挨拶くらいしろ。 やる気がもっと出る」 ウィルがゆっくりと立ち上がり、ジャックの元に数歩駆けて行き、ジャックの胸に飛び込む。 「…ただいま、ジャック…」 「おかえり、ウィル」 ジャックが大きな手でウィルの小さな顔を両手で包み、ウィルのおでこにキスを落とす。 「どうして来てくれたんですか?」 上目遣いのウィルの美しさの混じった愛らしさに、ジャックは負ける。 そうしてゆっくりと唇を重ねると、鼻先が触れる距離で「会いたかった。それじゃ駄目か?」と囁く。 ウィルが「嬉しいです…とても」とはにかむように言って、今度はウィルから触れるだけのキスをした。 暗闇の中、双眼鏡を掴む手に力が込もる。 暖かな灯りに包まれるウィルの家に向かって。 ウィルとジャックは二人並んでジャックお手製の豆や野菜がたっぷり入ったトマト味のチキンスープとガーリックバターを塗ったフランスパンを赤ワインで平らげると、二人で皿洗いをし、犬達を外に放った。 犬達は我先にと夜の平原を駆けて行く。 ジャックとウィルは微笑み合い、交代でサッとシャワーを浴びる。 ジャックがバスローブを着てバスルームから出て来ると、ウィルもバスローブ姿でベッドの端に座っていた。 ジャックが着ているバスローブもウィルが着ているバスローブも、ジャックがウィルの家に泊まるようになってジャックがプレゼントした物だ。 ふかふかの素材の真っ白なバスローブをウィルは気に入っていているが、ジャックが来ない日はウィルがバスローブを着ないことをジャックは知っている。 ウィルの横にジャックが座る。 ウィルの肩をジャックが抱くと、ウィルの方から唇を合わせて来る。 ジャックはそうと知っていてバスローブの隙間からウィルの雄を掴む。 それだけでウィルが「ああっ…」と甘い息を漏らす。 雄は緩く立ち上がりほんのりと湿っている。 ジャックがウィル自身の先端をクルクルと撫でながら、「もう濡れてる。あれを見たからか?」とウィルの耳元で囁く。 ウィルがカーッと赤くなる。 真っ赤になった耳朶をジャックが軽く噛んで「答えろ、ウィル」とまた囁くと、ウィルが小さく「そう」とだけ言った。 だがジャックは見逃さなかった。 ウィルの丸みがかった大きな瞳がベッドサイドに無造作に置かれた細く黒い革紐をチラリと見たことを。 「あれをして欲しいのか?」 「……」 「はっきり言葉にしなきゃやらないぞ。 何も、な」 ジャックがウィルの雄から手を離す。 「…ジャック…!」 ウィルの悲痛な声にもジャックは平静だ。 「さあ言え。 『今夜は』どうして欲しい?」 ウィルが胸元の金色の十字架のネックレスを掴むと、瞳を閉じて、震える声で告げる 「ペニスを縛って…尻を打って…」 ウィルの閉じた瞳から涙が一粒零れる。 その涙にジャックがキスをすると、やさしく言った。 「好きなだけしてやる。 まずは横になれ」 ウィルはベッドに横になると、足を大きく開いた。 そしてジャックがウィルにフェラをしてやり、ウィルがイきそうになった時、ジャックがベッドサイドに置いてあった紐を素早く掴み、ウィルの双膿にくるりと巻いてぎゅっと縛り、そのまま茎もくるくるとガッチリ縛って行き、カリを強く締めて縛り付ける。 これでウィルのペニスは勃起したまま射精することが出来なくなる。 それからウィルは壁に両手を付き、尻を突き出す。 ヒュッと空気が切れる音がして次の瞬間ウィルの小さな尻が思い切り叩かれる。 バシン、バシンと容赦無く叩かれ、最初は痛みが、それからは熱さをウィルは感じる。 そして背筋から頭に駆け抜ける快感を。 ギチギチに縛られた雄からもじんわりと蜜が溢れ出す。 ジャックが手を休めずに、「お前は本当に淫乱だな。こんなことをされて感じまくってる」と冷たく言われて、ウィルの雄がピクピクと震える。 そして十何回叩かれただろう。 ウィルが尻をブルブルと震わせ「アアッ…イく…イくっ…ジャック…!」と息も絶え絶えに言い、ジャックが「イけ、ウィル」と言うとウィルは何も放出せずに絶頂を迎えた。 そのまま崩れ落ちそうになるウィルをジャックが片腕で支えて、ウィルをそっとベッドに横たえる。 そして手早く雄を縛る黒い革紐を解き、ウィルの雄を口の中で転がす。 「…ああん…気持ちい…い…」 「そうか。 ほら出しちまえ、全部」 ジャックがやさしく言ってウィルの雄の根元を扱きながら口と舌を使うと、ウィルはジャックの手の中で呆気なくイった。 ジャックはさっとティッシュで手を拭くとウィルをぎゅっと抱きしめる。 「尻は痛くないか?」 「…熱い…気持ち良い…」 ジャックがウィルのしっとりと濡れた長い睫毛にキスをする。 「今度はやさしく抱きたい。 いいだろう?」 ウィルがゆっくりと瞳を開ける。 そしてジャックの太い首にか細い腕を回す。 「ジャックはいつだってやさしい…でしょ?」 ジャックが苦笑する。 「お前の為じゃなきゃ『あんなこと』はしたくないんだがな」 「だからやさしいんです。 もう…きて…」 ウィルが硬く猛ったジャックの雄に触れる。 ジャックの喉がゴクリと鳴る。 ジャックは「この小悪魔め」と言うと、ウィルを仰向けにした。 翌日の午後3時。 ウィルは講義を終えて帰宅する為に駐車場にいた。 今朝ウィルが起きた時、ジャックはもう居なかった。 テーブルのメモに『仕事だ。先に行く。』とだけ走り書きがあった。 ウィルはそのメモをテーブルに置くと、またベッドに戻った。 もそもそと毛布に包まると、犬達が揃ってこちらを見ていた。 ウィルは小さく笑い、「昨夜は気を利かせてくれてありがとう」と言った。 結局、昨夜はジャックはウィルの中で二回、ウィルは三回達した。 縛られてドライでイったことを数に入れるとウィルは四回だ。 前日も抱かれたことを考えれば、身体が怠い。 それに昨夜は犬達が帰って来る気配が全然しなかったので、ジャックは余裕を持ってウィルを『蹂躙』した。 ウィルは出勤時間ギリギリまでベッドで粘り、ジャックが買ってきてくれたパンは今夜に回すことにしてコーヒーだけを飲むと、クワンティコまで車を走らせた。 身体は少々キツかったが、気分は良かった。 なぜなら昨夜寝る前にジャックが泡のバスに入れてくれ、その時に今週末犬達も連れてウィルの家の近くの山にハイキングに行こうと誘ってくれたからだ。 今日は木曜日。 あと一日頑張ればジャックと犬達と自然の中でのんびり過ごせる。 今日と明日は仕事以外は犬達の世話をしたら、ゆっくり過ごして週末に備えようと、ウィルが考えながら車のドアを開けた時だった。 ドアがぐっと開かれた。 驚いてウィルがドアの向こう側を見ると、柔和な笑みを浮かべたレクター博士が立っていた。 仕立ての良いコートを着こなしている。 「何か?」 ウィルが警戒心丸出しの声で言うと、レクター博士が笑った。 「驚かせてすみません、グレアム博士。 ハンニバル・レクターです。 パーティでご挨拶が出来なかったし、昨日の朝も出来なかった。 それでお声を掛けさせて頂こうかと思いまして」 「博士はいりません。 グレアムで結構です。 あなたのお話はブルーム博士から聞いていますが、あなたも聞いていませんか? 僕はカウンセリングはお断りします」 「ブルーム博士は私のカウンセリングを受けなければ、あなたを現場に出すことを認めませんよ? 上層部も同じ考えだ。 それでも?」 ウィルがキッとレクター博士を睨む。 「今回は仕方無かった。 それにジャック・クロフォードも僕が現場に出ることは反対だし、僕も出たくない。 ですからカウンセリングは必要ありません」 「金の十字架をしていない」 突然のレクター博士の発言に、ウィルが思わずレクター博士を真正面から見つめる。 レクター博士は微笑んだまま続ける。 「金の十字架はジャックと『特別なこと』をする時にしか着けないのかな? ジャックは勤勉で優秀な捜査官で常識人だと思っていたが、恋人にスパンキングをするDV癖があるとしたら、先にジャックをカウンセリングしなければならないね」 ウィルの手から鞄が落ちる。 レクター博士がフッと笑う。 「そんなに真っ青な顔をしないで。 せっかくの綺麗な顔が台無しだ。 カウンセリングは明日の午後3時から。 遅れるなら連絡をして」 そうしてレクター博士は人差し指でウィルの頬をすっと撫でると、呆然と立ち尽くすウィルに背を向け去って行った。

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