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第一章・3

 カフェ・がらくた。  勤務帰りに伊予は、いまや馴染みとなったマスターを訪ねていた。  彼がこうしてやってくると、マスターはいつも極上のコーヒーを御馳走しようと腕を振るう。  ウエイターの石丸(いしまる)も、その場にいることが常だった。  しかしながら、今日は芳しいコーヒーを一口飲んで、伊予は溜息をついたのだ。 「マスター。こいつのカップを下げます」 「いや、石丸くん、それは!」  石丸を睨む伊予を睨み返しながら、彼は不満げな顔のまま吐いた。 「せっかくマスターが手間暇かけて淹れたコーヒー。一口飲んで溜息なんか、何様のつもりですか? 泥水でも飲んでてください」  石丸の言い様はあんまりだったが、伊予はハッとした様子だ。  そこへマスターが助け舟を出した。 「何か心配事でも? 私でよければ力になるよ?」  伊予は、素直にマスターに語り始めた。

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