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第一章・5
分厚いマスターの体に阻まれ、取っ組み合いの喧嘩は何とか回避した伊予と石丸だ。
マスターはマスターで、彼なりに伊予の語る英治の様子に心を痛めていた。
「お疲れだろうね、大沢さんも。私で何か力になれることは……」
「アレはどうです、マスター。ほら、僕が以前やった、あの目薬」
石丸くんの目薬などいりません、と即座に突っぱねる伊予だったが、マスターがやけに勧めてくる。
「すばらしいんだよ。目の疲れどころか、心身の疲れもいっぺんに吹っ飛ぶよ」
マスターがそう言うのなら、と伊予はやや態度を緩めた。
『猫印・目薬』
手のひらにすっぽり収まるその小さな容器のラベルには、大きくネコが描かれてあった。
「にゃんこの目薬、ですか」
伊予は、口角を上げた。
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