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第一章・6

 ネコは、英治の好きな動物だ。  オフィスで使う愛用のマグカップにも、ネコのイラストが入っている。  マスターが冷蔵庫から取り出してきたそれは、石丸にもらった二個のうち未開封の一個らしい。 「これを、晴れた夜に。外で点眼するといいよ」 「ありがとう、マスター」  目薬の出所は僕です、と石丸が口を出す。 「高価な漢方薬の店から譲り受けた秘薬。無駄にしないでくださいね」 「……一応、礼を言っておくよ」  最後にマスターは、おかしな条件を加えてきた。 「大沢さんと並んで、伊予くん。君もぜひ点眼してほしいな」 「いいですけど?」  マスターは微笑んだ。  これで、この奥手な伊予くんと大沢さんの間が、少しでも縮まるといいが!  マスターの微笑みは、少しだけいたずらっぽい色を帯びていた。

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