7 / 32

第一章・7

 翌日は幸運な事に、快晴。  日はすっかり沈み、茜色の西の地平も群青へと移ろい始めていた。 「鹿久保くんが私に用がある、なんてね」  大沢はにこやかに笑うと、オフィスの屋上で夜風を気持ちよく浴びた。  この日は都合の良い事に、残業。  いや、英治の激務を思えば、残業を手放しで喜ぶことのできない伊予だ。  だが、マスターから譲り受けたこの目薬を、すぐに英治に渡せることは良しとしていた。 『すばらしいんだよ。眼の疲れどころか、心身の疲れもいっぺんに吹っ飛ぶよ』  この言葉を、すっかりそのまま英治に伝えた伊予は、心からマスターを信頼していた。  そして英治も、そんな伊予を信じていた。 「まさか本当に、目薬を持って来てくれるとは」  そう彼は笑ったが、伊予はいたって真面目な顔つきだ。 「漢方で調合した、特別な目薬だそうです」 「それはそれは」  英治は、やけに嬉しそうだ。

ともだちにシェアしよう!