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第一章・7
翌日は幸運な事に、快晴。
日はすっかり沈み、茜色の西の地平も群青へと移ろい始めていた。
「鹿久保くんが私に用がある、なんてね」
大沢はにこやかに笑うと、オフィスの屋上で夜風を気持ちよく浴びた。
この日は都合の良い事に、残業。
いや、英治の激務を思えば、残業を手放しで喜ぶことのできない伊予だ。
だが、マスターから譲り受けたこの目薬を、すぐに英治に渡せることは良しとしていた。
『すばらしいんだよ。眼の疲れどころか、心身の疲れもいっぺんに吹っ飛ぶよ』
この言葉を、すっかりそのまま英治に伝えた伊予は、心からマスターを信頼していた。
そして英治も、そんな伊予を信じていた。
「まさか本当に、目薬を持って来てくれるとは」
そう彼は笑ったが、伊予はいたって真面目な顔つきだ。
「漢方で調合した、特別な目薬だそうです」
「それはそれは」
英治は、やけに嬉しそうだ。
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