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第一章・9

 淋しい夜空から眼を放すと、英治は伊予の方を向いた。 「どうだい? 何か変わった事は?」 「はい。心地よい清涼感があって。でもその他は特に……、うわぁッ!?」 「なんだ!?」  常におっとりとした伊予が、突然声を上げて驚いてみせたのだ。  英治は、まずはその事に驚いた。 「何かあったのか? 大丈夫?」 「はい、いえ、でも」  言うか言わぬか迷っていたような伊予だったが、やがて目薬を英治に渡してきた。 「どうぞ。大沢さんも、注してみればお解かりになります」 「私を試すのかい? おもしろい」  私は声など上げないよ、と英治は目薬を点眼した。  眼の奥の凝りまで染み入るような清涼感に、深い息が漏れる。  心なしか、肩の重い張りまでほぐれていくようだ。

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